更新日:2020年04月04日 03:47
エンタメ

第558回 4月4日「学校行ってモトとれる?」

・タクシーに乗って年配の運転手さんにあたった時、若い頃のモテ自慢をされることって多くないですか。あれはどういうことかというと、40年くらい前までは、プロの運転手ってレアな職業だったのである。実際すごく儲かって、モテる職業だったらしい。 ・ではこの10年で最もレアリティが落ちた職業はというと、物書きだと思う。これは自戒もこめて書いてるんだけど、年長の物書き……ライターや作家、あるいは評論家の方々って、やたらプライドが高くて、妙に怒りっぽいと思ったことないですか。ネットでいきなり上から目線で説教してきて訝しがられてる人、すごく多いよね。 ・昔は、物書きになるのはなかなか大変だったのだ。文章を書くという技術は専門領域にあった。書いても、発表するためには活字にして印刷してもらったりして、頒布してもらう必要があった。文章を人前に出すまでのハードルが高かったのである。選ばれし人々だけがそれを行えたわけだ。ネット時代になり、それが特権ではなくなった。誰もが好き勝手に書いた文章を一瞬で世界に向けて発表できるようになったからだ。当然テキスト情報の価格は限りなくダンピングされていった。 ・昔の物書きは、ステイタスだけでなく収入も高かった。具体的にいうと1980年代頃、売れてる雑誌は1ページで10万〜20万くらいの原稿料をもらえた。得意ジャンルを持つ人は評論家と呼ばれ、つまり取材なんかしなくても半日で数十万稼げた。バブル時代にはこれがもっと上がった。 ・今、雑誌文化がほぼ死に絶え、文章仕事の主戦場はネットに移った。そこで原稿料は1/100になった。若いライターさんにとってはこれは普通のことで不満もないだろうが、20世紀に活躍していて、そして今でも仕事を続けている人達は、憤懣やるかたない思いなのではないか。 ・小説も、同じだ。文芸書の平均部数は80年代から半減していると聞いた。今は本にするよりツイッターに書いた方が読んでもらえる。そして書いてる人よりYouTubeで喋ってる人たちの方が収入も影響力も大きいのだ。 ・さて、文字で食べて行くということがとても困難になっている状況で、大学の「文学部」の存続については、本気で危ぶまざるを得ない。文学部に通っている若い人と話をする機会がよくあるのだが、将来のことを聞いてみると、真面目な学生に限って「先生になりたい」という。彼らは、今の時代に作家や評論家として独り立ちしていくこと、すなわち文字の力で食べていくことの困難さを知っているわけである。 ・つまり「文学部」とは、「文学部の先生を養成するための学校」になっていくのであろう。 ……って、この結論ちょっとおかしいよね。 ……………………………………………………………………………………………… ※この話題「学校行ってモトとれる?」のライブトークVer.はこちらです↓
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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