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新型コロナで「引っ越し」も自粛。1年の稼ぎの半分が消えた業者も

 幸か不幸か、今年はそうした様子が一変。コロナの感染拡大を防ぐために引っ越しを取りやめる人が急増したのである。  物流業界の専門紙である『物流ウィークリー』編集部によると、今年は「引っ越し難民」という言葉すら聞こえてこないのだとか。 「コロナの影響で、これまでの繁忙期のような需要過多ではなくなっており、業者間の競争が激化し、明らかに例年の繁忙期とはかけ離れた市場になっています。企業が人事異動に待ったをかけて転勤が減少したり、一般客も自粛傾向にあり、予約のキャンセルも相次いでいます。引っ越し業界は異常事態に陥っていると言えます」  こうした状況を踏まえ、取材班は引っ越し業界大手と準大手の計12社にアンケートを実施したが、苦境を窺わせるかのように、10社が沈黙。残る2社も、「前年同期より大幅に減った実感はない」「コロナの影響による予約キャンセルはあまり聞こえていない」と、歯切れの悪い回答だった。
[引っ越し業界]大恐慌

福井睦樹氏

 業界の“異常事態”を肌で感じているであろう、前出の福井氏にも聞いてみたところ、その分析は衝撃的だった。 「3社、4社と探してウチにたどり着いたお客さんは、去年はかなりいらっしゃったんですが、それに比べたら今年は仕事がなさすぎます。実際、今年の繁忙期の引っ越し価格は例年の半額以下。去年の大手は大阪‐福岡間を70万~100万円程度で運んでいましたが、今年は30万~40万円程度の模様です。ウチはもっと安い。これだけ価格が落ち込んでいるところを見ると、おそらく業界の案件数も半分になっているんではないでしょうか」

中小は受注件数3割減。コロナを機に淘汰が進む?

[引っ越し業界]大恐慌

中小の業者のなかには高速道使用を控えたり、ガムテープや軍手、段ボール箱などの資材管理を徹底して、経費削減に励むところも

 繁忙期価格で受注できずとも、仕事自体は確保できている大手と違い、中小規模の引っ越し業者はきわめて苦しい。Life Link引越センター(埼玉県和光市)の中野陽哉常務取締役はこう話す。 「受注件数は前年の3割減ほどですね。コロナの影響で建築資材が調達できずに家が建たず、引っ越しができないからとキャンセルになったり、転勤時期をずらすので引っ越し自体がなくなったケースもあります。客船『ダイヤモンド・プリンセス号』のニュースが取り沙汰された2月中旬~下旬あたりから『コロナの影響でキャンセルします』という方が増えた印象です。正直、経営には大打撃を被っています。ウチはまだ大丈夫ですが、なかには倒産する同業者も出てくるんじゃないかと思います」  また、これまで関西一円で活動してきたエール引越しサービス(大阪府守口市)も、発想の転換を強いられている。 「この時期ですと、こうして取材にお答えしている暇もないほど忙しいのですが……例年と比べて、件数は3割減。もはや関西だけでなく、中国四国地方や関東まで対応エリアを広げざるを得なくなっています。全国展開されている他社さんのように、例えば大阪から群馬まで行って、その帰りに東京に寄って大阪行きの荷物を積んで帰ってくるというような仕組みをつくろうとしているところです」  しかもこれだけ仕事が減ったにもかかわらず、繁忙期を見越して事前に人員の確保をしていた引っ越し業者は少なくない。関東のとある中小業者の総務担当者は、悲鳴を上げていた。 「1月くらいから前もってアルバイトの採用活動を始めまして、例年よりも多くの人員を確保していたんです。それなのに引っ越しの案件が少ないので、仕事を振れない事態に陥っています」  こうした苦境は、誰にも出口が見えない。外出自粛や休校解除の見通しも立たず、東京都ではロックダウンの可能性も噂され、しばらくこのコロナ騒動は続きそうだ。そんな不安をみずから打ち消すかのように、引っ越し業者たちは、「5月以降に繁忙期がずれ込むのでは。そのために今は耐える時期」と歯を食いしばっている。  しかし、「たとえ終息に向かったとしても、現状で繁忙期がずれてやってくるということは考えにくい。引っ越し業者は、これから迎える通常期や閑散期をどう乗り越えていくかの体力勝負になるのではないか。業界内の淘汰が進む可能性も考えられます」(『物流ウィークリー』編集部)という意見もあり、まったく先行きは見えていないのが実情だ。 【福井睦樹氏】 大手引っ越し業者勤務を経て、’93年にファイン引越サービスを創業。現在は全国にサービス網を拡大。引っ越し業界歴30年のベテラン 取材・文・撮影/沼澤典史・野中ツトム(清談社) 写真/朝日新聞社 PIXTA ※週刊SPA!4月7日発売号より
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週刊SPA!4/14号(4/7発売)

表紙の人/ Juice=Juice

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