新型コロナで「引っ越し」も自粛。1年の稼ぎの半分が消えた業者も
人手不足を背景にした「引っ越し難民問題」が深刻となった昨春。料金の高額化や受注の困難化など「引っ越し業界」は岐路に立たされた。それから丸1年、コロナ禍によって業界は再び大きな岐路に立とうとしている……。
コロナ禍によって、我が国の多くの業界が大打撃を受けているのは、各種報道の通り。経済的打撃の大きさは「リーマンショック級」ともいわれているが、もっともそのあおりを食らっているのは、引っ越し業界かもしれない。関係者によれば、現在、この業界は未曽有の苦境に立たされている。
そもそも引っ越し業界にとって、進学や人事異動に伴う引っ越しが重なる3~4月は、年間の業績を左右する最大の書き入れどき。それをコロナショックが直撃しているのだ。ファイン引越サービス(大阪府堺市)の福井睦樹取締役社長は、この道30年の叩き上げとしての経験をもとに、業界の収益構造をこう話す。
「この繁忙期が各社の稼ぎどきで、ここで年間利益の半分くらいの収益を上げています。引っ越し会社の経営の基本は、3~4月の短い期間に稼いで蓄えをつくり、それ以外の月のマイナスを抑えることです。引っ越し業界の永遠の課題として、『繁忙期をならして月ごとの売り上げを平準化すればよい』と指摘されることがありますが、それは綺麗事。平常期の仕事の単価がもう下がりすぎていて、正直、繁忙期の価格設定がなければ引っ越し業はやっていけないんですよ」
インターネットの比較サイトが登場して以来、価格に対する顧客の目は厳しさを増すばかりだ。それは引っ越し業界も例外ではない。
「10年前までは単身の平均引っ越し単価は東京で4万円、大阪で3万円と1万円の差がありました。しかし、いまは全国一律になり東京でも3万円となっています。業界で最初に価格破壊を起こしたのは、現在の業界首位に上り詰めたサカイ引越センターでしたが、準大手、中小はこうした大手の値段を基準に見積もりを出します。その際、大手はネームバリューがあるため、例えば大手の5万円見積もりに対してウチが4万円を出した場合、『1万円しか違わないなら大手に頼む』というお客さんが2~3割はいらっしゃいます。つまり、かなり値引きしないと受注が取れないんですよ」
引っ越しの技術そのものは負けていないのに……と福井氏は嘆くが、閑散期はそうした値下げによる消耗戦になっているのが現実。そのため、引っ越し需要の急増が大手業者の対応力を超え、中小業者にも仕事が行き渡る繁忙期に頼らざるを得ないのだろう。
だが、’18年から「引っ越し難民」が社会問題として大きくクローズアップされるようになった。いびつではあっても、曲がりなりにもこのシステムで回ってきた引っ越し業界も、昨今は岐路に立たされているというわけだ。
「私が現場にいた頃は、3~4月は60連勤。ぶっ通しで働いて10万円の報奨金をもらう、という時代でした。そうした長時間勤務によって繁忙期の引っ越しは成り立っていたのです。それが人手不足と働き方改革によって、業界全体の許容量が減っていき、引っ越し難民が発生してしまいました」
昨春、社会問題化した「引っ越し難民」はいずこ!?
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