更新日:2020年04月11日 13:06
エンタメ

第559回 4月11日「現実シミュレーターのシミュレーターとして」

・繁華街にも旅行にも行けなくなった心の穴を『あつまれ どうぶつの森』が埋めてくれる。過去作もそうだったけれど、今回の『あつ森』は特に「自然の中での生活」が強調されている。100%人工の自然って、本当に素晴らしい。「人工の自然」って言葉自体が矛盾してるけど。ツルツルピカピカしたものばかりの、野山や海岸。悪臭を放つ汚物も、服の下に入り込んでくる毒虫も、見えない花粉にやられて咳き込んで痰や唾を吐き散らかす脆弱な肉体も、そこにはない。 ・わずか1ヶ月で、すっかり思い知ることができた。文明なんて幻想だった。コンクリートやガラスに覆われた建物に住んでいても、化学繊維の服に身を包んでいても、完全パッケージングされた料理に電磁波を当てて食べていても……実はまだ僕らは原始時代とそんなに変わらない世界で、不潔な動物として生きていたのである。動物として体液や排泄物をまき散らし、そして他人の唾液や糞便を吸い込んで、ウィルスに感染していた。僕らよりもさらにキラキラした世界に住んでいるはずの芸能人やスポーツ選手までもが。 ・自分の目はだませても、ウィルスや細菌からはのがれられない。自然を征服することなんて未来永劫不可能なのである。かといって自然に回帰していくことも、今更できるわけがない。この先の文明はどう進んでいくべきか。 ・やはりバーチャル世界を開拓していくしかないのだと思う。在宅勤務を支えるテレワークも、イベントやライブを無観客で行うネット生放送も、これまではとてもマイナーなシステムだった。それが今回の状況で一気に一般化した。 ・もしこの状況があと数年も続くとしたら、現実のコピー空間をネットワーク上に作っていく動きは、相当なレベルで進むと予想する。よほどの必要性が無い限り活動はそこで済ませる。勉強も、仕事も、遊興も、あるいは恋愛も。 ・学校の教室とか、会社の会議室とか、最初は現実のコピー空間が作られるだろうが、やがてはバーチャルならではの空間に変化していくだろう。授業も、会議も、これまで想像もできなかったようなやり方が生み出されていくと思う。 ・そこでどんな空間を作っていくのか。ゲームが思考実験のベースとなっていくはずだ。特に「その世界を作りつつそこで暮らす」サンドボックス系は重要だ。『マインクラフト』あるいは『あつ森』などをプレイしながら、僕たちは未来を予習しているわけである。 ……………………………………………………………………………………………… ※この話題「現実シミュレーターのシミュレーターとして」のライブトークVer.はこちらです↓
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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