なぜ日本は「一律現金給付」しないのか?「補償なき休業要請」の批判はお門違い
安倍首相が緊急事態宣言を発令し、外出自粛や出勤者の7~8割減を要請。しかし「自粛要請するからには補償もセットにすべき!」と、政府に批判が集まっている。なかでも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入が減少した世帯への「30万円の現金給付」については、「条件が厳しく、もらえる人がいるのか?」「全国一律に給付しろ」「(一部の職業の人がもらえず)職業差別だ」といった声が強まっている。
「欧米、特にアメリカについていえば『レイオフ』(再雇用を条件とした一時解雇)といって企業は社員を解雇しやすいので、毎月の給料が突然なくなる人が出てきます。実際、アメリカの新規失業保険申請件数(3月28日までの1週間)は平時の30倍以上にもなり、過去最高の約660万人に上りました。この2週間だけでもアメリカは1000万人以上が失業している状況です。このようにアメリカは解雇しやすく、公的な健康保険もないため、個人にまとまったお金を迅速に給付する必要があるのです」(城さん、以下同)
対して日本は、すでに“崩壊した”と言われるものの「終身雇用制度」が今も残っている。
「日本は、企業が社員を解雇しにくく、今でも全力で従業員の雇用を守ろうとします。そのため、いきなり社員をクビにしたり、企業が倒産しないように、日本は個人にではなく“企業にお金を出す”という政策を取っています。その代表が『雇用調整助成金』です」
企業側の都合で一時休業する場合、事業主は労働者に対して「休業手当」を支払う必要があると労働基準法で定められている。休業手当は賃金の6割以上で、解雇しない場合はその90%を国が助成すると拡充されている(中小企業の場合で、最大8330円まで。大企業は75%)。これが「雇用調整助成金」のコロナ特例だ。
「4月から特例で助成率を引き上げており、労働者が休業手当をもらう際、企業の負担が少なくなるように国が助成しています。対象者は従来は雇用保険の被保険者のみでしたが、契約社員や派遣社員、パート、アルバイトなど非正規の労働者にも適用が拡大されています。
また、入社6か月未満の新入社員も対象です。こういった国の助成によって、労働者の雇用はできるだけ維持されるようになっています。事業主側の都合で休業することになっても、雇用が維持されれば収入が突然ゼロになる心配をしすぎる必要はありません」
さらに、国の助成を受ける際の煩雑な手続きを軽減し、申請の負担も減らす予定だ。
「直接的に国民に現金を給付する欧米に対し、日本の場合は『政府→企業→国民』と間に企業が入っているから見えにくくになっていますが、欧米と比べて日本の政策が劣っているわけではないのです」
ちなみに「30万円の現金給付」では風俗業などで働く人は対象から除外されて批判が集まったが、この雇用調整助成金では風俗業などで働く人の雇用も守られるよう、風俗営業等関係事業主への支給も可能となっている。
「補償なき休業要請」という批判に対し、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』などの著書を持つ人事コンサルタントで作家の城繁幸さんは「実はすでに日本は手厚い補償が用意されています」と指摘する。いったいどういうことか。
企業を通して国民の雇用を守る政策
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