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ドラマ『M 愛すべき人がいて』ダサすぎるのにウケるのはなぜ?

 新型コロナウイルス拡大の影響で放送延期となる4月クールドラマが多い中、注目を浴びているドラマがある。その代表的な作品が『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系、土曜夜11時15分~)と『きょうの猫村さん』(テレビ東京系、水曜深夜0時52分~)である。視聴率で見ると、『M~』は初回5.6%、第2回5.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と深夜帯とは思えない高視聴率をマーク。また、同作に関するキーワードがツイッターのトレンドワード上位3位に入るなど数字以上の話題を集めている。
M 愛すべき人がいて

画像:『M 愛すべき人がいて』公式サイト(テレビ朝日)

 また、『きょうの猫村さん』もわずか2分30秒のミニドラマにも関わらず、放送終了後にTwitterをはじめとしたSNSで大きな反響を生んだ。なぜこの2作が話題を集めているのか? ラブストーリーとコメディ、ジャンルは違えども共通するのは“ツッコミどころ満載”というところだろう。

とにかくダサすぎる『M』とシュールな『猫村さん』

 まず、この2作について簡単に説明していこう。 『M 愛すべき人がいて』は、平成の歌姫として君臨した浜崎あゆみが誕生するまでを描いた自伝的小説が原作で、夢をかなえるために上京したアユとカリスマプロデューサー・マサとの運命的な出会いと成長を描くメロドラマだ。ここまで聞くと壮大な感動大作を想起させるが、同作にそういった要素は感じられない。主演のアユを演じる新人女優・安斉かれんの大根役者っぷり、田中みな実演じる眼帯を付けた奇妙な秘書をはじめとした脇役たち、ベタすぎるセリフの数々をはじめ、「ダサすぎる」要素ばかりに目がいってしまうのだ(4話以降は放送休止)。  一方、『きょうの猫村さん』も“癒される”と話題になっていたほしよりこの同名コミックを実写化したドラマだ。しかし、家事能力が高いかわいらしいネコ・猫村ねこを演じるのは身長188センチを誇る個性派俳優・松重豊という実にシュールな作品になっている。  このツッコミドラマ2作について、業界人たちはどのように見ているのか? その本音に迫った。

『M~』は総ツッコミ文化を逆手にとって成功!

 キー局で深夜ドラマなどを手掛けている40代プロデューサーはこう語る。 「『M 愛すべき人がいて』はSNS時代をうまく逆手に取った作品だと思います。今はドラマや映画、バラエティー番組などあらゆるコンテンツに国民がSNSを使って評価や下す時代になった。その賛否が視聴率や話題性を左右することも多々あるのですが、このドラマはそういった賛否の質よりも“量”だけを増やすように仕掛けたんでしょうね。  つまりSNSでとにかく“ツッコミ”をしてもらいやすいように、意図的にベタでダサい設定やクサいセリフを散りばめたんだと思います。脚本を手掛けた鈴木おさむさんは元々放送作家。『ドロドロした愛憎劇が多い大映ドラマを意識して作った』とおっしゃっていましたが、バラエティー番組を作るときのような遊び心を持って書いていらっしゃるのでは(笑)。また、制作に新進気鋭のネット番組「Abema」の若いスタッフが関わっていることも攻めたドラマになった要因だと思います。  ただ、視聴者に飽きられてしまうのも早いのでは……という心配もあります。おそらく後半はしっかりとメロドラマの要素を強めてくるでしょう。3話で放送休止(コロナの影響で撮影中止のため)になったことは、飽きられてしまう前に配信などで新規ファンを取り込むことができるので逆によかったのではないかなとは思います」

クオリティと尺のギャップに高級さを感じる『猫村さん』

『きょうの猫村さん』については、制作会社の女性プロデューサーB氏からこんな意見を得た。 「松重豊さんが“猫村さん”を演じることだけでも攻めていると思ったのですが、飼い主役の濱田岳さんや石田ひかりさん、市川実日子さん、池田エライザさん、小雪さんといった演技派の人気俳優をズラリと集めていることに驚きました。しかもセットや料理もゴールデンタイムのドラマと遜色ないほどのクオリティであることにも衝撃を受けました。放送時間を考えても予算は厳しいはずなのに、さすが“攻めのテレ東”さんだなぁ……と久々に思わせてくれた作品ですね。  その中でも一番攻めていると思ったのは本編尺ですよね。あのクオリティの内容で1話が実質2~3分しかないのは“ツッコミ”を入れざるを得ない。もし通常の30分~1時間のドラマだったらあれほどツイッターなどでバズっていなかったと思いますよ。おそらく、視聴者的には一口サイズの高級フレンチを食べているような感覚になっているのでは(笑)」
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ツッコミドラマはリアルタイム視聴を増やしているが……
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