イスラム教徒の集団礼拝、ラマダーン(断食月)はコロナ禍でどうなる?
4月24日から1か月間にわたり行われているイスラム教の「ラマダーン(断食月)」にも、新型コロナウイルスの影響が及んでいる。都内最大規模のモスク(礼拝堂)がある東京・渋谷区の「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」では、断食明けの夕食会や毎週金曜日に行われる集団礼拝などの行事を自粛。
時刻は午後3時半を回った。夕刻の礼拝時間となったが、400人近くが集まれるモスクは静かだった。
礼拝堂にいたのは10人余り。マスクを着けて祈りを捧げる人の姿が目立つ。普段は隣同士の肩と肩とが触れあうくらいまで詰めて行うが、この日はそれぞれが1メートルほど間隔を空けて座っていた。「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」の広報スタッフで自身もムスリムの下山茂さん(70)は「集まってお祈りできないのは寂しいですね。モスクに来ればみんなと会えるのが楽しみでした」としんみりする。
モスクに来ることができない信者のために、イマーム(指導者)によるコーランの朗読をYouTubeで配信している。トルコから派遣されている2人に各章ごと朗読してもらい、その後日本語訳を付けて動画にしている。自宅でもモスクに来ているのと同じように信仰活動が行えるように、「ラマダーン」に合わせて始めた。収録に立ち会うと、朗々と力強い声が閑散としたモスクに響き渡っていた。壁や天井に描かれた幾何学模様や植物模様、アラビア語のカリグラフィーが美しい礼拝堂内で、コーランを読み続ける正装したイマーム。本当にここは東京なのかと疑いたくなるほど、異国情緒漂う雰囲気だ。
他にもビデオ会議アプリ「Zoom」を使って「ラマダーン」の意義や精神・肉体への効能を解説する講義を実施している。下山さんは「モスクへ行くことができなくても、イスラムへの理解を広げるための活動につながっています」と話す。
「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」は、トルコ共和国の支援を受けて2000年に建てられた宗教施設だ。イスラム暦の九月に当たる「ラマダーン」の期間中には、例年大勢のムスリムたちが集まる。期間中は日の出から日没までいっさいの水や食事などの欲望を断ち、自らの信仰心を清める。
今年は施設内での各行事が、中止を余儀なくされている。夜の礼拝に当たる「タラウィー」や日没後の夕食会「イフタール」は、期間前から行われないことを決めた。下山さんは「毎年イスタンブルから2人のシェフが来てくれ、朝から500人分の食事を作ってくれることが楽しみだった」。豆や野菜をふんだんに使った前菜の他、牛肉とジャガイモを煮込んだメインディッシュ、ケーキなどのデザート。シェフたちが腕によりをかけて作った料理の話を聞き、筆者(私)の食欲もそそられる。
そもそもラマダーンは誤解されているという下山さん。筆者(私)もその1人だ。取材前に立てた仮説では「新型コロナウイルスの影響を受け、『ラマダーン』でも免疫力低下を懸念して自粛をしているのでは」と考えていた。
しかし下山さんは「ムハンマドの教えには病気が蔓延しているところには行かず、自分の命を守ることに優先せよとあります。個人でラマダーンを行っていますし、そこまで影響はありません」と話す。
ラマダーン中の下山さんの1日は、とてもハードだ。夜明け2時間前には起き、食事をしてから礼拝に立つ。6時30分になると近くの公園に出掛けて、四股を100回踏んだり、約3キロのウォーキングをこなしたりする。自宅に戻ると仕事相手とのメールや原稿執筆に追われ、息抜きとして読書に励む。昼の礼拝をした後には30分ほど仮眠をとる。それから、日没後の食事に向けて近くのスーパーへ買い物に行く。得意料理は野菜たっぷりの「ラタトゥイユ」で、夕飯の支度を終えると日没間近になっている。
下山さんは「(ラマダン中は)何もしていないとお腹が減ったとか考えてしまうので、そういった時間を作らないのが大事」と述べる。日没後、その日の断食を終え最初に口にするコップ一杯の水、一切れのパンは美味しい。
「水が飲めること、一切れのパンを口に運ぶことができること、すなわち食事ができること、そして全ての神の恵みに感謝します」
モスク内で感染者を出さないために苦渋の決断に出た一方、信仰の場を保つために礼拝の様子をインターネットで配信する動きも始まっている。苦難にもめげず信仰を維持する教徒たちの様子を報告する。
コーランの朗読をYouTubeで配信
来訪者は例年と比べ少なく…行事中止相次ぐ
断食辛くない? 下山さん「待ちに待った至福の時」
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新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren
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