今後休学や退学を検討する音大生が出てこないか、オンライン講義に不安を抱く音大生にどうサポートしていくか……。支援団体の中でも対策の必要性を感じている。音大生の就労支援や生演奏の場を提供するNPO法人「ネクストステージ・プランニング」では今のところ、コロナの影響で休学を検討するといった相談は寄せられていない。ただ、今後経済的に一層苦しむ音大生が出てくるのではないかと懸念している。 　同法人にも大学でのオンライン講義に対する不安の声が寄せられている。回線が混み合って時おり不通になるなど、生演奏とは無縁だったトラブルに見舞われているという。また、対応に追われる指導教員の中でも試行錯誤が続いている。 　同法人音楽ディレクターの藤井裕樹さんが現在の状況をこう話す。 「業界内ではこの状況でどうしたらいいのか、何ヶ月このままなのか、そもそもアンサンブルはできるようになるのか、誰も答えを出せない状況です。オンラインが普及しつつあるとはいえ、クラシックは生演奏が醍醐味です。授業の準備をしている先生たちも苦労しているようです」 　休学を選択したくても、家庭の事情からできない学生も少なくない。経済的に苦しむ音大生を支援するため、同法人ではサポーター制度を導入している。生演奏の機会をつくるだけではなく就学・就労支援をしていくため、月額1000～10000円の寄付を募っている。 　藤井さんは「音楽やスポーツは衣食住以外の＋αの部分を担っている活動。聴く人の心を豊かにしたり、楽しませたりすることができるのが私たちの役割です」と必要性を説く。 　休学する音大生の支援へ具体的な取り組みも出てきた。東京・幡ヶ谷にあるクラシック音楽専用の会員制シェアスタジオ「Garba Studio HATAGAYA ガルバスタジオ幡ヶ谷」では緊急事態宣言解除後の６月１日以降、音大生向けにスタジオを無料開放する予定だ。 　4月にオープンしたものの、現在は営業を自粛している。通常営業に戻り次第、学生の幅広い要望に応える考えだ。オーナーの彌永耕一さんは「防音設備がない家に住む学生にとって、練習できる環境が整わず不安があるはず。こんな状況だからこそ力になりたい」と話す。 　発案者でシェアスタジオの運営に関わる兼清颯さん（30歳）はSNS上で、学校が入構禁止となった音大生の練習環境を心配する投稿を見つけた。何か力になれないかと企画を考えている中だったので、興味を持った。音大生がどんなサポートを求めているのか今も気になっている。「（スタジオの貸し出しは）どこまでできるか分かりませんが、可能な限り対応したいです」と考えている。 　3階建ての施設内には、大小10のスタジオと100年前のヨーロッパをイメージしたラウンジがある。「声楽」「室内楽」「オペラ」などクラシック音楽に特化しているのが強みで、3階部分にはYouTubeなどメディア配信や録音録画に対応したスタジオを展開する予定だ。彌永さんは「利用した方々の意見を取り入れながら、求めている音響に近づけるようにしていきたいです」と意欲をのぞかせる。 　そもそもなぜ音大生を手厚くサポートする必要があるのか。筆者（私）の不躾な質問に、普段演奏活動もしている兼清さんは「今この状況でできることは未来のお客さんを守ることです。将来スタジオを利用してくれるはずだった人たちも困っているのだったら、できる限りのサポートをしたい」と答えた。クラシック界に飛び込む仲間を見捨てたくないとの思いが、それまで業界とは無縁だった筆者（私）にも伝わってきた。使命感に燃える音楽家の姿を見て、生演奏が再びできる日が待ち遠しくなった。＜取材・文・撮影／カイロ連＞新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter：@hokkairo_ren