震災に泣く全国のホームレス「炊き出し、寄付、全部減った」
震災の影響は、被災地から遠く離れた地域で暮らすホームレスにも及んでいる。
3月以降、ホームレスの自立を支援する雑誌『ビッグイシュー』の販売部数が落ち込んでいる。震災後、半年間の売り上げは前年同期比で2割減。発行元は「被災地への募金が優先された結果ではないか」とみている。
また、東京には約2400人のホームレスがいるが、震災の影響は少なくない。都内でホームレスの人権問題などに取り組む弁護士の森川文人氏が言う。
「震災直後は炊き出し用の米や野菜がまったく回ってこなくて、しばらく食糧難に陥りました。寄付も震災前と比べて格段に減っています。支援団体の方々が被災地にボランティアとして参加していたこともあり、従来のホームレス支援が後回しにされ、当初予定していたプロジェクトのいくつかが棚上げになったままです」
当のホームレスたちは最初こそ、「自分たちよりも被災者を」という思いを持っていたようだが、時間がたつにつれ、炊き出しが減ったことなど自分たちの支援が滞っていることに不都合を感じ始めた。そして被災者が東京に避難してきた頃、その不満が形となって表れることに。あるホームレス支援団体の代表者が言う。
「被災者に同情する一方で、彼らがタダで都営住宅に住めることに嫉妬するホームレスも出てきたんです。自分たちが何度も自治体にお願いしてようやく入れるのが狭いシェルターなのに、被災者はテレビやエアコン付きの2LDK。『家がないって意味なら同じホームレスじゃないか』と、自分たちと被災者を同列に見る人まで出始める始末でして……」
被災者には「災害救助法」が適応されるため、仮の住居が提供される。もともとホームレスだった人とは立場が違うわけだが、一部のホームレスが「差別だ」と暴走し始めたというのである。
「被災者になりすまして都営住宅の抽選会に参加したホームレスも大勢いたようですね。被災地に住んでいた証明ができないため、すぐに追い返されたみたいですけどね」(支援団体代表者)
東北から都内にホームレスが流れてきている今、こうしたイザコザは今後もますます増えるかもしれない。「ホームレス総合相談ネットワーク」事務局長の信木美穂氏もこう言う。
「実際に東北地方からやってきたというホームレスの方から、東京での路上生活についての相談も受けています。都は公園や河川敷のテントを次々と撤去しており、ホームレスが住みづらくなってきている。東北からの“移動組”を受け入れる態勢が整っているとはいえません」
いち早く行政の然るべき対策が必要となるが、前出・森川氏は、
「まずは国民全体がもっと関心を寄せること」と話す。
「今年になって、生活保護受給者が200万人を突破しました。非正規の若者や年金をもらえない高齢者らも含めると、今後、生活に困る可能性がある人は増える一方でしょう。ホームレス問題は対岸の火事ではないのです。国民全体がもっと自分の問題として捉えることで、行政側を突き動かすしかないと思います」
間もなく本格的な冬が到来。震災の影響を受けたホームレスたちにとっても厳しい季節が始まる。
【森川文人氏】
ホームレス問題などを意欲的に扱う人権派弁護士。「ホームレス総合相談ネットワーク」の代表も務めている
取材・文・撮影/奥窪優木 佐野二郎 仲田マイ 高島昌俊
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