AIが予測する地域分散型社会への移行
田舎暮らしに憧れはあれど、気がかりは仕事とお金のこと。だが、業種さえより好みしなければ仕事はあるといずたに氏は断言する。
「地方と一口に言っても地方都市であれば安定した働き口はありますし、我々が住む島は観光業がメインですが、民宿、旅館、軒並み人手不足です。どうしてもやりたいことがあるなら別ですが、『この仕事しかしたことがないから』という保守的な理由なら、業種にこだわらずに飛び込んでみてもいいのでは? 求められることで、やりがいも感じてもらえると思います。究極的なことをいえば、空き家もあるし、草刈りを手伝う代わりに野菜をもらうなどの交換経済もある。都心部よりセーフティネットも利いています」
島のマルシェの様子。こういったイベントやパブリックスペースが多いエリアなら、コミュニティに自然に溶け込むことができる
冬の電気代やガソリン代など移住先のランニングコストを細かく計算すれば、「使える金額が可視化され、精神的にも安定する」とはミネ氏。さらには、こんな職の探し方もあるという。
「『TURNS』で提唱している“継業”という言葉があるんです。これは、地元で何十年も続いた定食屋や喫茶店、銭湯なんかが後継者に恵まれなくて廃業という時に、血縁関係ではない第三者が代を継ぐ考え方。継業のいいところは、地元のファンを引き継ぎつつ、イニシャルコストをかけずにお店を持てるということ。元の主人には家賃が入りますし、地元には若い人が増える。今後、後継者に困っているお店が“見える化”して、移住者とマッチングさせるスキームができればいいですね」
福島県の山間にある小さな集落。水がおいしく、県内からの移住者もいる。雪深いエリアでは冬季の電気代などのランニングコストも考えておきたい
ここまで移住の現場に近い識者に話を聞いてきた。では、研究者はアフターコロナの人口がどう動くと予想しているのだろう? 京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典氏に話を聞いた。
「実は’17年にAIを活用し、2050年の未来に向けて、2万通りのシナリオから今後の日本社会のシミュレーションを行ったんです。その際、東京一極集中に象徴される都市集中型の社会から、地方分散型社会への分岐が2025年から2027年頃に生じる可能性が高いという結果が出ました。学生を見ていてもローカル志向が強まっていると感じますし、この傾向はコロナによって加速するでしょう。これからは住む場所の選択を含めて個人が今より多様なライフコースを可能にしていくと思います。またそれが結果として、経済や人口にとってプラスに働き、社会全体の持続可能性を高めていくことになると思います」
広井良典氏
令和に入り、昭和・平成的な価値観や社会構造が薄れつつあったが、その流れはさらに進みそうだ。
▼住居
・空き家バンク制度やそれに代わる制度はあるか?
・移住者向けに家賃や住宅購入の補助はあるか?
・防災マップやハザードマップの確認
▼仕事
・ワークステイ、ワーキングホリデーを実施しているか?
・移住者の就業・就職を支援する体制が整っているか?
・高速インターネット網が整備されているか?
▼生活環境
・食料や日用品が購入できる場所、病院や学校までの距離
・高速のインターや最寄りの駅、空港までかかる時間
・年間を通しての寒暖差や日照時間など
【いずたにかつとし氏】
総務省地域力創造アドバイザー。地方と人を繋ぐLOCONECT主催。5月31日に
オンライン移住フェアを開催
【ミネシンゴ氏】
三崎で出版社アタシ社と蔵書室カフェ「本と屯」「花暮美容室」を営む。『TURNS』編集ディレクター。現在、泊まれるシェアオフィス準備中
【広井良典氏】
京都大学こころの未来研究センター教授。『コミュニティを問いなおす』で第9回大佛次郎論壇賞受賞。近著に『人口減少社会のデザイン』など
<取材・文/山脇麻生>
※週刊SPA!5月26日発売号より