平成なんてどうでもいい 昭和をもう一度見直せ!
井筒監督がこの映画で伝えたいものをあらためて聞いた。
「簡潔にいうとね、『昭和をもう一回見直せ!』ちゅうことよ。平成なんて、どうでもいい。熱かった昭和をみんなどう生きたかってところにヒントがあると思うんだ。今の若いコってこの冷たい格差社会の中で、すがるところもない、頼る人もいない。結局、みんな不憫な無頼なんですよ。ヤクザになれとは誰も勧めてないけど、一歩間違えたら誰でもグレるしかない、筋も通せないのが現代ですよ。ヤクザは生まれた境遇ありきで、なりたくてなるわけじゃない。だから、一本筋の通った男になるにはどう生きるか、そんなところをこの反面教師映画で探ってもらえたらなと思いますね」
「筋」の話から、その矛先は政治家に。
「大体、政治家がまず筋が通ってないでしょ。政治家にこそ、この映画観てもらったほうがいいかもしれないな。思うけど、今の政治家こそ腹黒いチンピラじゃない?仁義のないこと平気でやってる。何でもカネで買えると思ってやがるチンピラだ。コロナ騒ぎで政党交付金までもらうとか、信じられないよね。仁義もクソもあったもんじゃないよ。世が世なら、義憤を感じる男は殴り込みに行くよ。昭和なら斬り込みに行ったよね。バキュームカーで国会に乗り付けるとかな」
『無頼』の中には、カネを貸し渋った銀行にバキュームカーで乗り付けて、大騒動を起こすシーンが登場する。
「実は僕の映画でバキュームカーのシーンを撮るのは、今回で2回目なの。前回は固形物を入れすぎて詰まらせちゃって、失敗したんだよ。そのリベンジがしたくて無理やりネタに入れたの。そんな意味でも“集大成”なんだよね(笑)。映画って、僕には憂さを晴らすものなんだな。一緒に泣きましょうとか、そんな偽善的映画は実はどうでもいいの。今度の『無頼』は、家で職場で憤懣やるかたなく、クタクタになってる“失われた世代”の若者たちの、憂さ晴らしにはもってこいの映画になってんじゃないかな」

▼『仁義なき戦い』(販売/東映ビデオ)

戦後広島のヤクザ抗争の渦中の人物であった美能幸三の獄中手記を基にした、実録ヤクザ映画シリーズの1 作目(飯干晃一原作)。深作欣二監督の金字塔にして、日本ヤクザ群像史映画の原点
▼『ゴッドファーザー』(販売/パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン)

フランシス・F・コッポラ監督の名前を世に知らしめた大作。「アル・パチーノなんて実はクビ寸前だった。ほかの俳優もみんな無名でパラマウント側とごっつ揉めたらしいよ」(井筒監督)
▼『北陸代理戦争』(販売/東映ビデオ)

深作欣二監督による松方弘樹主演の実録ヤクザもの。「僕、この映画大好きで、『無頼』の中にもパロディシーンがあるの。あの頃の松方さんへのオマージュです」(井筒監督)
井筒和幸
’52年、奈良県生まれ。県立奈良高校に在学中から映画制作を始める。’75年、35ミリのピンク映画『行く行くマイトガイ 性春の悶々』にて監督デビュー。日本人の少年と在日朝鮮人の少女の恋を描いた『パッチギ!』(’04年)では、’05年度ブルーリボン最優秀作品賞ほか数多くの映画賞を総なめ。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍している
<取材・文/桜井 涼 撮影/丸山剛史>
【無頼】
’20年/日本/2時間26分 監督/井筒和幸 出演/松本利夫、柳ゆり菜、中村達也ほか 配給/チッチオフィルム
12月12日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次ロードショー