仕事

所持金残り10円。バイト先の休業で40連休男性の“生活再建”に密着

「仕事選んでいる場合じゃない」から一転、決心は揺らぎ…

 しかし、時間が経つにつれて、決心は揺らいでいった。その理由は、筆者の責任が大きかった。木村さんを手助けする余り、彼自身の主体性を奪ってしまった。「緊急小口資金」の申請や仕事の仲介をしたのは当人のためだと思っていたが、結果的に変わるきっかけを削ぐ形になってしまった。木村さんは当時をこう振り返る。 「(緊急小口資金の申請を終え)もう大丈夫かなと気が緩んでしまいました。その後取材を受ける立場で自分の状況を振り返ってみると、やっぱりやばいんだなと思いました」

木村さんをどう支えるか=福祉がどうあるべきなのか考える体験に

40連休 木村さんは未だ仕事を始められていない。間も無く60連休を迎えるのに、なぜ仕事を始めないのか。何度も何度も問い掛けても、「今週中には……」と答えは変わらなかった。    取材をしていくうちに、筆者は生活困窮者を支えることへの難しさを感じた。その人のために様々なサポートをしても、思うようには結果が得られないとやり場のない苛立ちが募った。木村さんのような人が変わる姿を伝えたい一心だったが、思い描いていた未来にはならなかった。  1人の人間を変えることがこれほど難しいのかと、無力さでいっぱいになった。変わりつつある当事者をサポートする上で、じっくりと時間を掛けて忍耐強く見守る必要性を感じた。木村さんをどう支えていくのか。これは彼自身の話だけではなく、福祉がどうあるべきなのかを考える機会になった。

NPO代表「コロナ後の社会は、私たち一人一人に掛かっている」

 新型コロナ後の福祉のあり方はどうなるのか。木村さんのような人たちをどう支えていくべきなのか。生活困窮者の相談が数多く寄せられているNPO自立生活サポートセンター・もやいに話を聞いた。大西連理事長は、現在の状況をこう説明する。 「職場の休業で日雇いを始めた人や休業以降仕事をしてない人など、2、3か月前にはこうなっているなんて思っていなかったという相談が数多く寄せられています」  大西理事長はコロナ以降、生活困窮者が孤立を招きやすい社会にならないか懸念している。直接会うことが難しくなり支援が行き届くよう、どんなことができるか模索している。行き場を失った人たちに必要な情報が届くようなシステム構築が欠かせないとする。  木村さんのような人たちをどう支えていくべきかと尋ねたところ、大西理事長は「本人の問題は本人にしかどうこうできないという部分が最終的にはあるので、あくまで見守ります。(できることは)必要な情報を伝えつつ本人の決断や変化を促す、ということくらいです」。  アフターコロナを迎えた時、日本は? 世の中は? どうなっているのか未だ見通せない。それでも大西理事長は「コロナ以降、生活困窮者一人一人にもっと寄り添う寛容な社会になるために、私たち一人一人に掛かっています」と訴えた。<取材・文・撮影/カイロ連>
新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren
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