エンタメ

9歳からネット中傷・炎上を経験 はるかぜちゃんはどう考える?

誹謗中傷者の特定に1年 弁護士費用は約100万円

 だが、そこからの道のりが長かった。ツイッター社に対する発信者情報開示の仮処分命令の申し立てを経て、IPアドレスとタイムスタンプの情報を取得。ISP(プロバイダー)への発信者情報の開示請求訴訟を起こして発信者を特定するまでに1年を要した。 「発信者がISPを4つも経由していたので、4社に対する開示請求訴訟に大変な時間とお金がかかりました。発信者を特定して内容証明で損害賠償と謝罪を求めたのですが、加害者は書き込みを認めはするものの、謝罪もなく『お金がない。身元を開示するので、払わなくていいですか?』という返事しか返ってきませんでした」  今年1月に慰謝料など265万4000円を求めた民事訴訟を起こし、同時に刑事告訴にも動いた。しかし、またしても警察ははるかぜちゃんを裏切る。 「弁護士を通じて神奈川県警に告訴状を提出したら、数日後に母のケータイに連絡があり『ウチはこういうのやってないから。送り返しておきました』って。受理したものを突き返すのも、弁護士を介さずに母に連絡するのもあり得ません。私がこの事実をネット上で公表して初めて、捜査に着手することを約束してくれたんです」
はるかぜちゃん

はるかぜちゃんが最も恐怖を覚えたのが下の書き込み。「当時、このような事件が話題になっていたので」と話す

 1年たってようやく発信者の責任を問えるスタートラインに立った彼女。だが、自身の決断を悔やむときも少なくないという。 「動くのが遅すぎたという後悔があります。すでに時効になった書き込みも多いので。無知だったこともありますが、訴訟を起こすことに反対する人たちがいたことも影響しています。『裁判をやっても時間のムダになるかもしれないよ』『仕事に支障が出るかもしれないよ』と、言われてきたので。貯金していなかったことも悔やまれる。すでにかかった弁護士費用は100万円近くに上りますが、貯金がなかったので全部バイトで工面したんです。でも、これだけかけても、加害者から回収できるかどうかはわからない。だから、泣き寝入りせざるを得ない被害者が圧倒的に多いんです」  実際、サイバーアーツ法律事務所代表の田中一哉弁護士は、「迅速な証拠集めが重要」と話す。 「削除されたツイッターアカウントではログの保存期間が短い。そのため迅速に動かないと発信者の特定が困難になってきます。また、証拠として残すには投稿日時とURLが必須。だから、キャプチャー画像として残すにせよ、PDFで残すにせよ、裁判の証拠として使うためには、投稿日時とURLを含めて保存しておくことが重要なんです」  今はコロナの影響で裁判の長期化を余儀なくされている。田中弁護士も、「被害者が負担するお金と時間は大きすぎる」と話す。それでも、はるかぜちゃんは闘い続ける姿勢だ。 「木村花さんの事件をきっかけにネット上の中傷のひどさは理解してもらえるようになりましたが、ちゃんと匿名の誹謗中傷に対しても責任を問えることをみんなに知ってほしい。裁判を起こすこと自体、イメージが悪いという世の中の認識も変えたい。正しい行いをするための手段にすぎないんですから。そのためには制度を変える必要もあると思っています。  まずは、高市早苗さんも言及している発信者特定までの時間の短縮。それと、被害者が多額のお金を費やさないと解決できないという制度です。お金を回収できないことも覚悟しなければならない現状では、裁判を起こせる人は限られて誹謗中傷はなくならない。裁判を始めたことでツイッター上での私への中傷は明らかに減りましたが、実はマイナーな掲示板に移行して中傷を続けていることを私は把握しています。私が“四天王”と呼んでいるアンチがいるんですけど、今後はこの人たちの責任も問うていく予定です」  誹謗中傷の根絶だけでなく、被害者負担を小さくする制度を――19歳の少女の闘いは続く……。 誹謗中傷者に損害賠償請求訴訟を起こすまでの流れ
次のページ
中傷ツイートの晒し行為は示談金減額の材料に
1
2
3
少女と傷とあっためミルク ~心ない言葉に傷ついた君へ~

ツイッター戦乙女はるかぜちゃんは、今日も言葉をつぶやき、投げかけ続ける

おすすめ記事