更新日:2020年07月04日 05:58
エンタメ

第564回 7月4日「ゲームの”アクセシビリティ”とは」

・視聴覚にハンディがある人にとってもゲームは魅力的なものだ。飯野賢治さんに昔教えてもらったことを思い出す。彼が視覚障害者の施設をリサーチした時、そこで『ストII』が流行っていたそうだ。音像定位からキャラクターの動きを察するのである。そこまでのレベルにならなくても、たとえば昇龍拳や波動拳を上手く出すことを競うだけでも楽しそうだ。 ・さて、前回紹介したラスアス2(『The Last of Us Part II』)では難易度とは別に「アクセシビリティ」の設定項目があり、ここの作り込みがすごい。アクセシビリティとは「使用者の能力にかかわらず活用できるようにするための機能」という意味で、通常は施設や機器について、障害のある人への配慮を説明するための言葉だ。このゲームでは音声や字幕によるガイダンス機能など60項目もの設定により、視覚や聴覚の障害者もそれぞれの状況に合わせた環境でプレイできるようにする配慮がなされている。 ・この話は「ゲーム制作者は社会的公正性に基づいてハンディキャップへの気配りをするべきだ」ということではない。この配慮がこのゲームの間口を大きく広げていることに注目してほしいのである。ラスアス2は、どんなに下手な人でも、エンディングまで行ける。アクセシビリティが、アクション操作が苦手な人へのサポートにもなっているからだ。 ・プレイヤーが自分で主人公を操作するアクション性は、映画にはない、ゲームならではの大きな魅力だ。しかしそこには必ず矛盾が生じる。ゲームは上手い人も下手な人もいるからだ。肝心なシーンでアクションがヌルすぎると、上級者にとっては緊張感が激減する。かといって難しくすると、初心者は一生そこから先に進めない。物語を知ることすらできなくなるということになる。これは単なる難易度選択では解決できない問題である。 ・あるゲームのストーリーに興味を持ったけれどアクションが難しそうだから実況動画だけ見ることにした、そういう話をよく聞く。ラスアス2についてはぜひ自分でプレイして、物語を体験してほしい。アクセシビリティの設定を変更することで、たとえば敵がほとんど攻撃してこなくなるようにすることもできる。考えるのが面倒な人は謎解きもスキップしたり、方向音痴の人なら常に進む方向を矢印で表示させたりすることもできる。 ・電話もタイプライターもリモコンも、最初は体が不自由な人のために発明されたものだ。そういう配慮で作られたものは、特殊作業用具やマニアックコンテンツを一般人に解放するときに非常に役立つものである。 ……………………………………………………………………………………………… ※この話題「ゲームの”アクセシビリティ”とは」のライブトークVer.はこちらです↓
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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