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ゲーマー、演歌歌手、女子アナ、犬…韓国テレビが何でも競わせる危ない事情

作曲家もデザイナーも競わせる

 そして韓国のオーディション番組は歌手だけでなく、あらゆるテーマを扱うに至る。俳優やモデルはもちろんだが、作曲家もファッションデザイナーもサバイバルの題材になった。出演者は番組の中で意味もなく競わされ、見世物にされるのであった。 「しまいには犬もオーディション番組になりましたからね。『サバイバル犬ショー“スーパードッグ”』(KBS)という番組です。今、韓国は空前のペットブームだから、飼い主は『自分の犬は可愛いでしょ? 賢いでしょ?』と自慢したくて仕方ないわけですよ。審査員も訳知り顔で『歩き方に気品がある』とか『こんなにも人の言うことを聞くなんて……!』とかコメントしていましたけど、当然のように番組自体は低視聴率のまま終わりました(苦笑)。  一方、『マイスターリーグ』(OGN)はeスポーツのサバイバル系オーディション番組。韓国でeスポーツで盛んなことは日本でもよく知られていると思います。韓国にはプロリーグがあるんですよ。プロだったら大会に出て優勝賞金をもらうなり、企業からスポンサードしてもらうなりすればいい。  だけどプロになりたい志願者も大勢いるわけで、そういう人たちが出るオーディション番組が『マイスターリーグ』なんです。プロ野球選手を目指すアマチュアのためのオーディション番組……と言えばイメージは伝わりやすいかな」(同)  これだけではない。なんとMBCでは自局の女子アナ面接試験も『新入社員』というオーディション番組内で放送したのだから、デタラメの極みである。アプリ開発の『スーパーアプリコリア』(OGN)に至っては、政府が番組を全面バックアップ。世の中には才能があっても資金不足でアイディアを形にできない人たちが存在するのは事実だが、国家ぐるみでバラエティ番組を支援するというのは日本人の感覚からすると信じがたい。 「オーディションということは、もちろん落ちる人もいるわけです。番組に出る時点でプライバシーの問題などは契約書にサインさせてクリアしているんだけど、それでも落ちたときのリスクっていうのは非常に大きいんですよね。  たとえば歌手だったら、それまで下積みで何年もレッスンを頑張ってきたのに、『ひどいね。今まで何やってきたの?』みたいなことを審査員に言われた瞬間にキャリアがパーになる。番組がなければオーディションに落ちても内部のスタッフにしか知られていないわけだから、『まぁいいか。次、頑張ろう』と他の事務所を受けることができた。  だけどテレビで顔を全国に晒すと、もう立ち直れないわけですよ。とうとうあまりにもショックで自殺する人まで出てきた。最近、日本でもリアリティーショーで自殺するプロレスラーが出て問題になりましたけど、韓国では何年も前から“テレビと自殺”というのは議題になっていたんです」(同)  視聴者というのは、よりショッキングな内容を求める性質がある。テレビ局はそのニーズに番組内で応えようとする。過剰な期待とプレッシャーが交錯する中、一種の“歪み”が生じるのは当然の帰結だった。次回、韓国テレビ界の衝撃的な実態を明らかにしつつ、サバイバル系オーディション番組がもたらした暗部についてもメスを入れる。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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