更新日:2020年09月17日 16:33
ライフ

なぜ、スティーブ・ジョブズは「富は重要でない」と言ったのか?

 人生の中盤、だいたい40歳くらいに差しかかると、若い頃ほど頑張れなくなる自分に自己嫌悪を感じ、メンタルを崩してしまう人が少なくない。これを「ミドルエイジクライシス(中年危機)」というが、その原因は意外にも若い頃に抱いていた思い込みにあるという。 「社会的に成功すれば幸せになれる」という誤った“幻想”が、人生中盤の心を苦しめます――そう語るのは『他人の期待に応えない』(SBクリエイティブ)を上梓したがん患者専門の精神科医の清水研氏だ。4,000人以上のがん患者と対話をしてきた同氏。程度の差はあるとはいえほとんどの人が陥るミドルエイジクライシスの原因と対処法を聞いた。
Closeup of casual hispanic man gesturing OK

写真はイメージです

出世すれば幸せになれるという“幻想”

 人は人生前半は「仕事で結果を出せば、出世すれば幸せになれる」という一種の“幻想”によって頑張ることができます。  しかし、誰もがどこかの時点で、抱いていたこの“幻想”と現実のギャップに気づきます。このギャップによって心を崩すのがミドルエイジクライシスです。  人生後半になったら、程度の差はあるとはいえほとんどの人が陥ります。そして、そのギャップが大きければ大きいほど、危機は大きくなるでしょう。  危機を迎えたときには人生前半に描いていた“幻想”にしがみつきたくなるかもしれませんが、そうではなく、「“幻想”を手放す時が来たのだ」と認識することが大切です。これから自分は老いていくという現実をきちんと見据えて、そのことを前提とした生き方、幸せを探求すべきなのです。

40代は人生後半を豊かに生きる通過点

 この時期は苦しいかもしれませんが、ミドルエイジクライシスは「人を成熟させ、人生後半を豊かに生きるための新しい生き方を見つける」ための通過点という意味もあるのです。  では、その道しるべはあるのでしょうか。答えは「イエス」です。私自身かつてミドルエイジクライシスに陥りましたが、私が答えをどこに見いだしたかと言うと、がんを体験した方が話してくれたことの中にあったのです。  私自身がミドルエイジクライシスに陥ったとき、やはり迷い苦しみました。気力が湧かず、むなしさでいっぱいだったときに、がん体験者の方が「これが人生において大切なこと」と指し示してくれた内容は、私の心にだんだん温かく響くようになっていきました。  彼らはがんになって、たとえ残る人生の時間が限られていたとしても、豊かに生きることができることを教えてくれました。そしてその豊かな世界の中では、他人と競争して手に入れる「地位」や「業績」、「お金」のようなものはどうでもよいのです。  人間の温かさに気づいたり、自然の美しさなど、自分自身の内面の豊かさを探求するような世界がそこにはありました。  スティーブ・ジョブズが最後に言ったとされる言葉、「私が勝ち得た富は、私が死ぬ時に一緒に持っていけるものではない。私が持っていけるものは、愛情にあふれた思い出だけだ」にも、端的にそれは表れています。
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死が訪れるという紛れもない事実
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1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院での内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院での一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降、一貫してがん患者およびその家族の診療を担当する。2006年より国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科に勤務。2012年より同病院精神腫瘍科長。2020年4月より公益財団法人がん研究会有明病院腫瘍精神科部長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。

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他人の期待に応えない ありのままで生きるレッスン

がん患者4000人以上に寄り添ってきた精神科医による、肩の荷を下ろし人生を豊かにするレッスン。
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