自衛隊員の妊活を邪魔してきた「引っ越しビンボー」問題
その98 隊員家族は「引っ越しビンボー」から抜け出せない?
全国異動対象は自衛隊では幹部だけですが、国家公務員も同様にほぼ2年ごとに異動があります。これまで引っ越し費用は定額支給であり、差額はすべて自腹でした。つまり「引っ越しビンボー」という切実な問題が存在したのです。この連載でも初期の頃から「引っ越しビンボー」についてレポートしてきました。ここで朗報です! 「旅費法48条第2項の財務大臣との協議」でこの引っ越し費用が改善されました! 令和2年6月から定額支給ではなく実費精算に変わったのです。
「助かった! ありがとうございます! 初めて引っ越し費用持ち出しがゼロでした!」
そんな現役自衛官の喜びの声があちこちから聞こえてきました。大きな一歩になったと思います。でも、「引っ越しビンボー」からの脱出にあと少し改善してほしいのです。
皆さん、「自衛官や公務員は整備された公務員住宅に安く入居できる」と思っていませんか? しかし、公務員住宅は売却で戸数も減り、築30年以上の狭くてボロボロの建物が目立ちます。しかも、「入居時の保証金や敷金は不要だが、退去時にふすまや畳の張替で20万以上取られた」といった話をよく耳にします。
先日、公務員住宅に住む方に「ぜひ、転勤族の生活を見てください」と招待されました。官舎退出時にかかる原状復帰費用節約のための「引っ越しビンボー徹底予防策」は想像を超えていました。2年ほどで全国を転々と異動するご家族ならではの“生活の知恵”を写真に撮らせていただきました。
まず、お部屋に入って最初に驚くのは、壁やガラス、ふすまや床が、あたかも引っ越し作業中のようにプチプチ(エアーキャップ)や波板、紙やブルーシートですべて覆われていることです。退去時に大損しないように、入居する直後に畳やふすまを外し、コーティングして部屋の隅にまとめています。家具は「ちゃぶだい」と衣装ケースなど必要最低限のものだけです。官舎の修繕基準はまちまちで、退去時に何度も数十万単位の請求で大泣きし、せっかく買った家具を捨てざるを得なかった過去が家族を変えたようです。
このご家族は次の異動費用を賄うために毎月1万を貯金しているという話でしたが、転勤貯金が貯まっていないと持ち出しになります。若い頃は預貯金もないので異動費用の立て替え払いに借金するようなこともあったそうです。引っ越し代金は立て替え払い後の清算ですが、給料がまだ多くない若い幹部は大変です。
この「引っ越しビンボー徹底予防策」生活は合理的ですが、「日々の暮らしの和み」がない殺伐とした生活は味気ないものだと思います。また、日々の生活は心を和ませる雑貨やゆったりと過ごせる家具たちが彩ってくれるものです。国家公務員はさまざまな地方に異動になりますが、これでは地方経済への貢献も少ないのではないでしょうか?
もちろん、このご家族はかなりレアです。が、転勤が多い幹部自衛官とその家族は、いつも次の異動におびえているのではないでしょうか。私の友人の幹部自衛官のご夫婦は、普段は仲睦まじいのですが、異動になると必ず大喧嘩になるのだそうです。家族の仲たがいを誘発する異動。「その異動は本当に必要ですか?」って聞きたいものです。
自衛隊改革で引っ越し費用が実費精算に!
外からは見えない転勤族の苦労
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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