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自衛隊員の妊活を邪魔してきた「引っ越しビンボー」問題

引っ越しビンボーの仕組み

 引っ越しビンボーになる理由は大きく3つあります。 (1)引っ越し代の自腹負担 (2)入居住宅の退去時の原状復帰費用の負担、もしくは、賃貸住宅契約時の敷金・礼金負担 (3)引っ越しに伴うさまざまな物品の購入費用  このうち(1)については、自民党防衛部会で何度も協議され、財務省などの大きな反発もありましたが、前述したようにやっとほぼ満額支払うよう制度改正できたようです。財務省に承諾させるにはさぞかしご苦労があったと思います。そこで、残り2つを解決して「引っ越しビンボー問題」に終止符を打ちたいものです。  目に見えない引っ越しに伴う費用負担とは、「換気扇やガス器具」が自前という官舎が多く、プロパンや都市ガス、換気扇の大きさなど規格統一されていないので毎回違うものを買わなくてはならないからです。大量のガス湯沸かし器や換気扇を持ち歩いている人もいます。このご家族の保持している「セカンド湯沸かし器」(下写真)は撮影しました。カーテンもサイズも異動のたびに長さや広さの違うカーテンが必要で四苦八苦するようです。 引越し お子さんがいればその学校にあった体操服や制服などの買い替え費用がかかります。しかも、共働きで生活費を補おうにも異動のサイクルが短ければ仕事もなかなか見つかりません。パートを転々としないといけないのですが、転勤族の妻とわかるとなかなかパートの採用のハードルも上がります。どうせ仕事を覚えたころには転勤するからダメと言われたこともあるそうです。住み慣れた場所を離れ、見知らぬ土地に数年おきに行かなければならない心的ストレスから、うつ病などの病気になるご家族もいると聞きます。

2年おきの全国転勤と不妊治療

 知人の話です。 「妻も40歳近く、腰をすえて不妊治療をしたいから、しばらく異動は堪忍してくれませんか? 私たち夫婦も子供がほしいです」と職場の上司に頼み込んでみたAさんは、「不妊治療なんてどこででもできる。甘えるな」と、さらなる異動を命じられました。  しかし、不妊治療はかかりつけの医師を決め、夫婦が両方のデータを見ながら腰を据えて取り組む治療です。しかも、心身ともにストレスの少ない環境が必要とされています。仕事を理由にそこまでの犠牲を強いるのはあまりにも酷です。  大企業では、社員の希望を聞いて全国単位の異動を控えるところも増えています。たとえば、引っ越しの頻度を2.3年に一度から5年以上のスパンに変えるだけで状況は劇的に変わりますし、予算もないのに、そんなに全国ぐるぐる回さなくてもいいんじゃないかと思います。一か所に腰を据えて地域や担当部署を掌握することも大事です。  菅義偉新総理は「不妊治療に保険適応を!」と総裁選のときに語ったそうです。頻繁な異動のせいで不妊治療すらできない公務員の家族を救ってあげてほしいものです。少子対策の一環としても、数年に一度という国家公務員の全国異動の条件を緩和してはいかがでしょうか?

よい仕事は暮らしの安定から

 そもそも国が公務員住宅の老朽化を改善せず放置した結果、現状修復費用が高くなり、公務員とその家族に負担をかけています。異動の回数を減らし、その分を官舎の改修や拡充、引っ越し経費の補填に充てれば、問題は改善されませんか? 士気も上がり、離職率も下がり、少子化対策にもつながります。地方にいる転勤族の人たちが、腰を据えて家具や電化製品を買うようになれば、経済ももっと回ると思うのですが……。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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