更新日:2020年09月30日 14:37
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携帯料金引き下げは本当にできるのか。賛否両論がうずまく理由

「可処分所得の増加」を目指すスガノミクス

 つまり、「海外より高い」ことは料金引き下げの理由としては薄弱だというのだ。そもそも政府による料金引き下げ圧力は矛盾をはらんでいるとも言える。 「利益率が高すぎると言いますが、大手キャリア3社は5Gの実現に向けて年間5000億円もの設備投資を行っています。料金の引き下げ圧力は、5G投資の遅れを招き、菅首相が推進する行政デジタル化にも影響を及ぼすことでしょう。5G通信網はデジタル化社会におけるインフラの中核となるものですから。その点で大いなる矛盾をはらんだ政策です。  そもそも、政府が『料金を下げる』というのは逆効果。利用者が『今後、安くなるなら多少高くてもこのままでいい』と考えて、格安スマホなどへの乗り換えをやめてしまうからです。すでに契約“2年縛り”の違約金上限の大幅な引き下げやナンバーポータビリティの導入により乗り換えの手間とコストは減っていますが、さらなる競争環境の整備を通じて値下げを促すのが本来あるべき政策です」(石川氏)  とはいえ、携帯電話料金の引き下げが大きな経済効果を生むのは事実。民間シンクタンクのエコノミストによると「1割の引き下げにより家計全体で6700億円以上の負担軽減になり、4割の引き下げなら消費税1%分の効果を生む」という。  実は、この家計負担の軽減はスガノミクスを読み解く上でのキーワード。官邸関係者は「菅政権の政策に共通するのは、可処分所得の増加にある」と話すのだ。 「構造改革で労働生産性の低い業種から高い業種への人材流入を促して給与所得を増やし、行政のデジタル化や通信料の引き下げ、不妊治療などの高額な医療費が発生する分野への助成を高めて、可処分所得を増やす。仮に額面の給料が上がらなくても、生活の向上を実感できる社会にするのが狙い。一見、バラバラに見えて、生活に密着した政策なのです」

カギになるデジタル庁の創設

 実はそのためのカギになるのがデジタル庁の創設だ。政治ジャーナリストの藤本順一氏が話す。 「その目的は縦割りだった省庁のシステム一元化による業務効率化にとどまりません。マイナンバーカードの普及を通じて健康保険証や運転免許証など個人を識別する規格の統合を目指し、カード一枚で行政手続きが済むような行政サービスの向上にあります。住民記録と病歴を結びつけることができれば、オンライン診療が容易になり、別の医療機関で受診する際にも二度手間が省ける。  公的サービスの利便性が向上する一方で、銀行口座とも紐づけできればコロナ禍で不備が生じた給付金の受け取りもスムーズになる。政府としてはあらゆるお金の流れが把握できて税の取りこぼしを防ぐことができるうえに、情報の管理を一元化できるというメリットがあり、企業にとっても省庁横断的な行政との連携が取りやすくなるというメリットがある。  スガノミクスのあらゆる政策と、デジタル庁創設は繋がっているのです。唯一の問題点は、個人情報の保護。監視社会への移行だとの反発は必至でしょう。実際、’02年に運用を開始した住基ネットも、大きな反発を呼んで、ほぼ浸透しないまま’15年に運用を停止しました。その点で、行政デジタル化に向けた各法案を取りまとめて提出するとみられる来年夏の通常国会は見もの。日本にとっての大転換期となる可能性があります」  なお、「働く内閣」を掲げる菅内閣は成果をあげることを重視しているため、「早期解散の可能性は薄れた」(藤本氏)という。となれば、東京五輪後の自民党総裁選を経て、衆院任期間近での解散が濃厚に。それまでにスガノミクスはどれだけの成果をあげられるのか?  ひとまず動き出したばかりの政権を注視したい。
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菅政権が掲げる主な政策の数々
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