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世界最大の英語辞典の誕生物語を見ながら、英語の統一性を考えてみた/藤沢数希

―[モテる映画工学]―
~映画『博士と狂人』~
モテる映画工学

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世界最大の英語辞典の誕生物語を見ながら、英語の統一性を考えてみた

 僕は日本生まれ日本育ちだが、博士号は英語で論文を書いて海外で取ったし、日本ではずっと外資系企業で働いていた。今は香港に住んでいる。日本人としては英語をかなり勉強したほうだ。好むと好まざるとにかかわらず、第二次世界大戦で勝った連合国側の大英帝国とアメリカ合衆国の言葉である英語が世界共通語になった。英語ができると外国人の女性とも仲良くなれるので便利である。  英語で僕が不思議に思っていることがその統一性だ。イギリスとオーストラリアは地球の反対側だし、アメリカも遠い。カナダもニュージーランドもある。それぞれの国に特有の訛りや方言はあるが、英語は英語なのだ。特に書き言葉は文法など驚くべき統一性がある。これはただならぬことだ。  中国語を勉強するとわかるが、中国語は一つではなく、各地にそれぞれ違う中国語がある。香港と上海と北京の中国語はまったく違う。時を経て言語は変化していくので、各地で別々の言語になってしまうのだ。

『オックスフォード英語大辞典』誕生の物語

 この映画は初版ができるまでに70年以上の歳月がかかった『オックスフォード英語大辞典』誕生の物語が描かれている。家が貧しく大学を卒業していないが独学で言語学者になったマレーが辞書編集の仕事を引き受けるのだが、あまりに膨大な作業のため世界中からボランティアを募集する。  そして、精神病院に収容されていたアメリカ人の元軍医マイナーが、日々言葉の用例を手紙で送ってくるようになった。この異端の2人が固い絆で結ばれていく……。英語が世界共通語となったのは単に戦勝国の言葉だったから、というだけではないのかもしれない。
博士と狂人』 監督/P・B・シェムラン 出演/メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー 配給/ポニーキャニオン 10月16日公開
物理学研究者、投資銀行クオンツ・トレーダー職等を経て、作家・投資家。香港在住。著書に『外資系金融の終わり』『僕は愛を証明しようと思う』『コスパで考える学歴攻略法』などがある
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