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『鬼滅の刃』大ヒットの背景には新型コロナの流行があった/『鬼滅の日本史』より

『鬼滅の刃』の快進撃が止まらない。20年7月にコミックのシリーズ累計発行部数が8000万部を突破。10月に公開した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、公開から10日間で興行収入100億円を突破した。昔話のひとつにすぎなかった“鬼退治”の話に大人も子供も夢中になったわけだが、そもそも『鬼滅の刃』の背景にある“鬼の物語”は日本の古典でどう描かれていたのかに焦点をしぼって深く掘り下げているのが、近頃刊行された『鬼滅の日本史』だ。 『鬼滅の刃』の世界観をより奥深く楽しむための本書によれば、ヒットの理由の一つに、新型コロナウイルスの流行と因果関係があるという興味深い記述がある。その内容の一部を抜粋、再編集したものを転載する。(※文中に『鬼滅の刃』のネタバレ箇所があります)
鬼滅の刃

映画公式HPより

日本と疫病の歴史

 2019年のアニメ放送をきっかけに『鬼滅の刃』の人気に火がついた理由として、物語の舞台と現代が両方とも「時代のはざま」であった点を指摘した。『鬼滅の刃』はアニメの大ヒットで終わらず、2020年にシリーズ累計発行部数が8000万部を突破するなど、さらに爆発的ヒットへとつながった。その一因として、新型コロナウイルスの流行があると考えられる。  2020年、新型コロナウイルスの流行が世界を席巻した。実は疫病と鬼は古くからの深いつながりがあり、『鬼滅の刃』もまた鬼=疫病とする描写が多く見られるのだ。夏に高温多湿となり、冬に低温低湿になる日本ではしばしば疫病が流行した。奈良時代の天然痘と思われる天平の疫病、平安時代の麻疹、江戸時代には梅毒のほか、疱瘡・麻疹・疫痢・フィラリア症・天然痘などが流行した。さらに幕末にはコレラがたびたび流行し、1858年のコレラによる死者は3万人を数えたといわれる。  このため日本の伝統行事には、疫病を祓うためのものが多い。最も有名なものが2月の節分の豆まきだろう。疫病は鬼がもたらすものと考えられ、節分=「季節を分ける日」、つまり季節の変わり目に鬼を祓って健康を祈願したのである。この節分の豆まきは宮中行事の追儺式が起源とされる。  大きな流行をもたらす疫病の多くは、外国からもたらされた疫病だった。このことから「鬼は外」は外国からもたらされた疫病を国外へと追い出すことを表しているとする説もある。

鬼は疫病そのものを表す存在

 赤鬼は天然痘などの疫病に罹り、高温のため顔が赤くなった様子を表しているとする説がある。また死人を想起させる青白い色で描かれることも多い。鬼とは死へと導く恐ろしい存在であり、死人そのものと考えられたのだ。 『鬼滅の刃』第14話で、鬼の始祖・鬼舞辻無惨が酔っ払いに絡まれた際に「青白い顔しやがってよお」「今にも死にそうじゃねえか」といわれ、「病弱に見えるか?」「長く生きられないように見えるか?」「死にそうに見えるか?」と激昂するシーンがある。これは無惨が人間の時に、20歳になる前に死ぬ、といわれるほど病弱だったことに由来する(『鬼滅の刃』第127話)。  アニメ版『鬼滅の刃』に登場する鬼のほとんどが青白い顔をしていることから、死なない存在=死人そのものであることを表していると考えられる。『鬼滅の刃』においても病気と鬼は密接に関係しているのである。  新型コロナウイルスに対する潜在的な不安感は、日本人の精神的な土壌として息づいている鬼のイメージと結びついたと考えられる。『鬼滅の刃』の爆発的なヒットは2020年になって加速した。新型コロナウイルスの日本における最初の報道は2019年12月31日のこと。2020年に入り中国・武漢でのパンデミック、2月3日に横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセス号でクラスターが発生、4月7日には緊急事態宣言が発令された。以降、連日新型コロナウイルスに関する報道は続き、それに伴い『鬼滅の刃』の発行部数も増加していったのである。
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鬼滅の日本史

日本の古典には鬼が“実話”として記録されている。なぜ鬼は生まれ、人々を苦しめたのか。そして、鬼とは一体“誰”だったのか。『鬼滅の刃』のルーツと隠されたメッセージを探る。
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