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大森靖子が語る2020年と炎上問題「なんでも他人の問題を自分の問題にしがち」

どんな人でも認められる場所、認められない場所がある

――大森さんはマイノリティに追いやられがちな存在でも優しく肯定してくれますよね。たとえば言動が否定されがちな“おじさん”も。 大森:おじさんに関しては憧れなんです。自分が以前行っていたアイドル現場で、“おじさんヲタ”が受け入れられて、女ヲタは阻害されている状況があって。どんな人でも認められる場所、認められない場所があるんだなあってそのときにわかって。だからこそ“個”を肯定してあげたい。 ――近年、広告だったりSNSだったりと、使った言葉で炎上するケースが増えていることをどう見ていますか? 大森:自分もツッコまれる側なんですよね。どうやってその言葉が選ばれたか、どういう歪みがあって炎上してしまったかおもんぱかって意見するならまだわかるんです。でも、そこに踏み込まず、言葉だけを取り上げて「この会社や雑誌がダメ」と焚きつけるのは理解ができない。  分解して考えるクセは身につけてほしいなあと思います。言葉は関係ないですが、今年アツギのタイツの広告が炎上したじゃないですか。ただ「性的搾取だ」という意見に煽られて、企画がなかったことになったのは悲しすぎますね。 ――炎上で人生が変わるなんていうタレントも多いですよね。 大森:なんでもかんでも他人の問題を自分の問題にしがちなんだと思うんです。報道されていることの全てが正しいわけじゃないし、なんなら被害者加害者が逆かもしれないじゃないですか。何も知らずに寄り添うのは一番危険だし、正義警察ぶって叩くのはとんでもない暴力だよなって思う。  武井壮さんが言ってたけど、「芸能人はリスク回避として異性と飲みにいかないほうがいい。なんなら結婚しないほうがいい。なぜならそっちのほうが得だから」って。それはそれで孤独の超人が行き着く先だけど(笑)。 ――そうした芸能人の発言、トレンドもウォッチしているんですね。 大森:世の中に否定されている人の気持ちになってみたいという興味……というか趣味があって。これはもう一種の病のようなもので、こういう家で育って、こういう思考回路があるからダメなことをしてしまったっていうのを想像したいんです。 ――それは国内に限らず? 大森:トランプ大統領は正直ずっと応援してましたよ。単純に私がTikTokが苦手だから。アメリカでの利用禁止を表明していたのを見て「Go! トランプGo!」の気持ちだった(笑)。

“2倍速文化”に存在を否定される

大森靖子――大森さんの楽曲が使われている動画も多いですが。 大森:モノづくりをしていると、“2倍速文化”は存在を否定された気分になるんですよね。私の曲でバズった動画もあるみたいなんですが、歌詞も聞き取れないし、「キラキラ欲を満たすためのフィルターでしかないのかな」って悲しい気持ちになる。  人間の泥くさい部分をかわいいものとして演出しているのに、そこを飛ばしているんですよね。とは言いつつも、TikTokをやっている大人たちは好きですけどね。娘とかに強引に撮られて恥ずかしがっている姿とか「かわいい!」って思う。 ――技術は進化して楽しいことは増えている一方で、どこかで歪みが生まれるという。 大森:そういえばこの前、天橋立に行ったんですよ。天橋立には有名な和歌があって(「大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天橋立」)、これは歌詠みが上手な女性が、周りから「親が書いたんだろ」って批判されたときに詠んだ歌なんです。  いろんな季語や掛詞を用いて反論しているのを知って、なんかラップみたいで面白いなって思うと同時に、歌って進化してないんだなって悲しい気持ちにもなって。 ――たしかに『フリースタイルダンジョン』のようですね。 大森:言葉も人と一緒で、並べると新しい意味が出てくるのに、「言葉狩り」をされていくことによって、一面的な表現しかできなくなるんじゃないかっていう危機感はあります。昔の人が和歌を詠むときみたいに、言葉を紡ぐワクワク感はずっと持ち続けていたいな。 ――来年もエンタメでは厳しいムードが続きそうですが、抱負があれば教えてください。 大森:音楽活動においては、長期的目標を決め込んでも楽しくないっていうポリシーがあるので、ライブやツアー、それぐらいで一年を計画するぐらい。ほかで言えば、SNSとか雑誌の表紙は“言葉狩りの戦場”になっちゃうので、そういったところから逃れて、深くえぐった表現をしていこうと思っています。 【Seiko Omori】 ’87年、愛媛県生まれ。“超歌手”。プロデューサー兼メンバーとしてアイドルグループ「ZOC」を率いる。’14年にシングル「きゅるきゅる」でメジャーデビュー。5枚目のフルアルバム『Kintsugi』を12月9日にリリースした 取材・文/東田俊介 撮影/尾藤能暢 衣装/rurumu: ※12/15発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』より
大学を卒業後、土方、地図会社、大手ベンチャー、外資など振り幅広く経験。超得意分野はエンタメ
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表紙の人/ 土屋太鳳

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