コロナが怖くて会社を退職…80代の母親とギリギリの生活を続ける日々
コロナ禍でテレワーク勤務を導入した企業は増えているものの、あくまで全体の一部。シンクタンクの公益財団法人日本生産性本部の調べによると、10都府県に再発令された緊急事態宣言下での企業のテレワーク実施率は22%。最初の緊急事態宣言が発令されていた昨年5月でも31.5%で、大半の企業はコロナ以前と変わらず出勤しているということになる。
だが、医療従事者は言うまでもないが、それ以外の仕事でも業務上、人と接する機会の多い職業は相対的に感染リスクがどうしても高くなる。そのため、なかには感染を恐れて仕事を辞めた者もいる。
昨年6月に老人福祉施設を退職した角田幸治さん(仮名・53歳)もそのひとりだ。
「医療機関だけでなく高齢者向けのグループホームや老人ホームなどでもクラスターが次々と発生しているというニュースを目にするようなり、不安で仕方ありませんでした。私は糖尿病持ちで、心臓の合併症で入院していたこともあります。もしコロナに感染すれば重症化する可能性が普通の人よりも高い。それで最初の緊急事態宣言が出された後、すぐに退職の意思を伝えました」
上司である施設長からは現場の人手が足りないことを理由に思い留まるように説得されたが、それを固辞。持病や感染リスクのことを話すと諦めてくれたが、それでも6月末まで辞めることはできなかったそうだ。
「新しい職員を入れるつもりだったようですが、募集をかけても来なかったらしく、『あと1か月でいいから!』と泣きつかれました。けど、そもそも私は非正規雇用の契約スタッフ。この時点で働き始めてから2年半が経っていましたが正社員登用の話も出ていなかったし、自分の健康と天秤にかけてまで働き続ける義理はないと思ったんです」
もともと角田さんは小さな基盤製作メーカーで働いていたが、2010年にリーマンショックによる深刻な業績不振を理由にリストラされている。その後、1年間のアルバイト生活を経て始めたのが老人ホームの介護職。そこでは正社員として働いていたが入院や療養生活で仕事を辞めざるを得なくなり、同じ仕事で復帰しようと入ったのが昨年まで勤めていた別の老人福祉施設だったという。
「これで結婚していれば妻や子供のためにも仕事を続けたと思いますが、私は独身です。それに今は実家で80代になる母親と暮らしており、もし私が感染したら2人とも重症化する可能性だってある。若いころは別に早死にしても構わないと思っていたけど、今はやっぱり死にたくない。高給取りの仕事ならともかく、手取りで月18~19万円がやっとでしたし、あのときは未練なんて全然ありませんでした」
現在は食品工場で週3~4日、アルバイトとして勤務。求人数が激減していたので覚悟はしていたが人との接触が少ないという条件で探すと、働けそうな仕事がなかなか見つからなかった。
「もう50代ですし、正社員の仕事なんてはなから諦めていました。契約社員でもバイトでもいいから週5日フルタイムで働ける仕事を希望しましたが、それでも実際には難しかった。ようやく採用された今の工場も給料は月8~9万円。多少収入が下がるのは想定のうえとはいえ、10万円ダウンはさすがに予想していませんでした」
実家の中古マンションで母親名義の持ち家だが、月々の管理費と修繕費積立金だけで2万2000円。母親の年金も角田さんの今の月収と同じくらいしかなく、節約しなければ家計は赤字になってしまう状態だ。
「蓄えと呼べるようなものはなく、もし自分か母が入院や手術となった場合、銀行やローン会社からの借入に頼らなければ費用を捻出するのは難しいかもしれません。当然、母を老人ホームに入れることもできませんし、ホームヘルパーを頼む余裕もない。まあ、今まで介護を仕事にしていたので自分でやれますが、そうなると働きに出られなくなるので……」
感染のリスクを背負ってまで働くことはできない
月収10万円ダウンで生活は破綻の一歩寸前
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ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
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