今は完全に「説明社会」
――大森さんはその“ざっくりテーマ”を聞いてどう思ったんですか。
大森:曲って、聴いた人がそれぞれ解釈をしてくれればいいと思っている派なんですけど、今って、完全に「説明社会」じゃないですか。曲の中で全部説明しないこと以外は、なき物にされるぐらいの。『街録ch』でいろんな人が人生を語ってくれることによって、説明しなくても勝手に曲が説明されていくっていう、すごいWin-Winな関係性ができあがるなあって。
三谷:最近は主題歌褒めてもらうっていうのが一番の喜びですね。定期的に「Rude」を褒めているツイートはチェックしているんですけど、大々的に最初にやってくれたのがバッドボーイズの佐田さん。感想も“サブカルおじさん”風に上から言うのではなくて、ストレートに「この歌詞を歌う大森さんを抱きしめたくなった」とか、大森さんのことを知らなかった人にもわかってもらうことができたのがめっちゃ嬉しくて。
「自分が作ったわけではないのに、こんなにも嬉しいのは新鮮な感覚」
――先ほど大森さんが曲では「説明をしなくて良い」と話していましたが、最近だと小室圭氏がPDF28枚にわたって金銭問題などについて説明する文書を公表したりと、“説明社会”を体現しているようですね。
大森:うん、気持ちはわかりますけどね。よっぽどの熱量があるから28枚も書いたってとじゃないですか。事実を書くだけでそのぐらいになる関係性ってあるじゃないですか。読んだ人が「そうなんだな」っていう共感みたいなものがあればいいけど、世間的な正解と、自分の正解って絶対に違うから、折り合いつく訳ないよなと思いましたね。
――SPA!で大森さんをインタビューする際にはマストの時事ネタですが、ここ最近気になったニュースはありますか?
大森:真相がどうなのかはわかりませんが、オリンピックのMIKIKO先生の声明や記事かな(編集部注:東京五輪開会式演出責任者だったMIKIKO氏が、大会運営の簡素化を理由に“排除”されたと週刊文春が報道。MIKIKO氏はその後Twitterで辞任の経緯を発表した)。MIKIKO先生と椎名林檎さんっていう、最強クリエイター布陣でこんな扱いを受けるんだったら、我々ゴミみたいなもんじゃないですか。社会性もないのに、自分の表現みたいなのをやらせていただいてる立場はどうなるんだって、下に見られすぎている感じがもう怒りとかではなく悲しかった。
あれのちっちゃいバージョンは、ほかにも身の回りにいくらでもありますし。だから「自分が仕事をちゃんとできるようになったらこういうことはなくなるんだ」と思っていっぱい頑張ってきたのに、「それでも無理なんだ」みたいな。
三谷:社会のルールの未熟さみたいなものが浮き彫りになってる感じはしましたね。
大森:いろんな人がいるっていうことが踏み潰されている状況が嫌なんですよ。「こうじゃないと自分は生きられない」と信念を持ってる人が集まる世の中の方が絶対面白いし、そういう人たちをこれからも自分は捉えていきたいですね。
【三谷三四郎】’87年、東京都生まれ。『笑っていいとも!』や数々の人気番組のADを経て、『さまぁ〜ずの神ギ問』や『有吉ジャポン』などのディレクターに。その後フリーとなり、YouTubeであらゆる人々の人生を聞く『街録ch−あなたの人生、教えてください』を開始
【大森靖子】’87年、愛媛県生まれの“超歌手”。’14年にシングル「きゅるきゅる」でメジャーデビュー。現在ソロ活動の他、プロデューサー兼メンバーとしてアイドルグループ「ZOC」を率いる。7月7日に「Rude」を含む初の提供楽曲セルフカバーアルバム『PERSONA #1』をリリース
<撮影/加藤 岳 取材・文/東田俊介>
大学を卒業後、土方、地図会社、大手ベンチャー、外資など振り幅広く経験。超得意分野はエンタメ