一本化には「開かれた談合」と否定的な田中康夫氏も、候補者同士の論戦は「望むところ」
11月8日、出馬記者会見を行う田中康夫氏
7月8日、横浜の老舗ホテル「ニューグランド」で田中康夫氏の出馬会見が1時間45分にわたって行われた。田中康夫氏は「創る・護る・救う」という理念とともに「YOKOHAMA 2021」と称する12の取り組みを冒頭で説明。カジノ反対についてだけでなく、学校給食(脱「ハマ弁」)問題、米軍基地跡地に消防・救急の一大拠点をつくる、待機児童・保留児童・独居高齢者問題、土砂災害対策、市議会議員提案の予算枠など、自らの言葉で政策を説明し、質疑応答を行った。
この会見はYouTubeで視聴でき、Twitterなどでは「説明がわかりやすい」「久々に政治家らしい会見を見た」「温かさが伝わってくる」といった好意的な書き込みが相次いでいる。同日に菅義偉首相の会見も行われ、菅首相が原稿を棒読みしながらあいまいな(時には的外れな)答弁を行い、特定の記者だけを指名して切り上げたことと比較する投稿も多く見られた。田中氏は記者クラブ記者とフリー記者を区別することなく、すべての記者の質問に対して丁寧に答えていた。
筆者はその会見の場で、「反カジノ候補の一本化」について田中氏に聞いてみた。
「(田中氏は冒頭の決意表明で)『市民の間では反カジノで結論は出ている』という話なのですが、今回の市長選には山中教授とか郷原さんとか田中康夫さんとか、反カジノの候補が複数名出られて、票を食い合って、カジノ推進派を隠れカジノ推進派を含めて利する可能性もあると思います。今後、一本化の話し合いとか公開討論会で予備選のようなものをするとか、反カジノ候補を一人に絞ることについてはどう考えているのですか」
田中氏は次のように答えた。
「報道を通じて、そのような意見があるということは伺っています。それは果たして、大変生意気な言い方ですが、民主主義の望むべきあり方なのでしょうか。と申しますのは、選挙は被選挙人の資格を持っている方はどなたでも、告示日の夕刻の締め切りまでは立候補することができます。
そして、いま名前が上がった方々はそれぞれメディアを通じてですが、立候補する意思があることを、それなりに会見という形でお話になっているということです。それを述べた後にすり合わせをしようというのは、私は何か開かれた談合のような話になっていくのではないかと思います。
私は候補者として、(立候補予定を)表明したものとして、それぞれの方と切磋琢磨をすると。で、個別にあるいは複数でディスカッションするということは大いに行われるべき民主主義だろうとは思います。
しかし、いったん立候補を表明した方が、『ここを飲めば立候補を降りる』とか、『ここをお前は飲んで一本化に協力しろ』ということは、私は民主主義の本来あるべき姿ではないのではないかと思います」
「談合」という否定的な言葉が返ってきたので、さらに筆者はこう質問した。
「公開の場で、アメリカの予備選のイメージなのですが、候補者が議論を戦わせて世論調査などをして候補者を絞り込むというのも否定するのですか」
すると、田中氏からは一転して肯定的な答えが返ってきた。
「それは大いに結構です。しかしながら日本の場合、私の経験では、日本青年会議所傘下の団体の方が進行して進めるという形がありましたが、これだけの数の中でどうやって物理的に行うのか。それは四苦八苦されていると思いますが、青年会議所だけではなくて、公平性を担保したうえで、そうした場を設けていただくということは候補者の一人として望むところです」
郷原氏も、山中氏・田中氏らとの公開ディスカッションを歓迎
11月7日、横浜市長選への出馬会見を行う郷原信郎・東京地検特捜部元検事。カジノについては反対の立場だが「住民投票で民意を問う」と表明した
公開の場での議論には郷原氏も賛成の立場だ。7日の出馬会見で、質問状への回答で最終判断する代わりに公開討論会のような形で直に山中氏と議論をする方法について聞くと、次のような前向きな答えが郷原氏から返ってきたのだ。
「そういう形もありうるのではないでしょうか。私は本当にできるだけオープンな場で、市民の人たちにも分かるようなプロセスを経ていくのがいいと思いますが、相手のあることですから、そういうようなやり方に応じてもらえるのかどうかだと思います」
また郷原氏は7月12日発信のブログ「横浜市長選挙を通して、『住民投票』と『候補者調整』の意義を考える」の中でも、公開討論を通して人物評価や政策論争を行って有力候補に絞り込むことは「民主主義の実現」という面からも望ましいのではないかと問題提起。田中氏ら立候補予定者との議論も次のように歓迎していた。
「田中氏も、出馬会見で具体的な政策を打ち出しており、その中には、私の掲げた主要政策と基本的方向性を同じくするものもあれば、考えを異にするものもある。今後、市長選挙告示までの間に、田中氏との間でも公開の場でディスカッションを重ねていきたいと考えている」
山中氏や郷原氏や田中氏ら有力な反カジノ候補が次々と名乗りをあげる中、カジノ反対票の分散によって少数派の推進派候補が競り勝つ可能性が高まっている。さらに7月13日には、前神奈川県知事の松沢成文参院議員がカジノ反対の立場で「出馬に意欲」と報じられた。
横浜市民に対する世論調査では「カジノ反対」が多数にもかかわらず、カジノ賛成派候補が“漁夫の利”で市長選を勝ち抜くのか。今後の立候補予定者たちの動向から目が離せない。
文・写真/横田一
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数