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子育てのために山を買う。アクアラインの先に東京から一番近い田舎があった

アクアラインを渡ると目からウロコの世界があった!

 未織さんが初めてアクアラインで房総半島に渡ったときの第一印象は、素朴でほっとする風景が色濃く残っていたこと。幹線道路から一歩入るだけで典型的な里山が現れ、南に行けば行くほど海の青さが感動的に美しくなる。まさに、「都心から一番近くて一番深い田舎」だ。  しかし、田舎物件が比較的多い房総でも、自分たちが思い描いているような物件はなかなか見つからない。もともと未織さんは最初から山を買うつもりはなく、土地の広さが500坪ほどあることが物件探しの第一条件だった。当時は「それぐらい広ければ何でも楽しめそう!」とのイメージだったとか。さらに、周囲に家が少なくて美しい山々や生きものがいっぱいいる川に隣接していること、都心の家からクルマで1時間半程度で通えることなども譲れない条件だった。そんな理想の物件を求めて週末の不動産屋めぐりは続いていたが、ある日、インターネットで目にした8700坪という広大な里山の物件を見に行くことになる。
山を買う楽しみ

タラやセリ、ノビルといった山菜、そしてクワや柑橘、ビワ、カキなどの果実を季節ごとに楽しめる。まさに、山暮らしならではの贅沢だ

「南房総の内陸にある物件で、山の中腹あたりに築120年の古民家が立っていました。その家の裏庭からは、美しい田園風景がわーっと広がっていて……。それまで50件近い物件を見てきましたけど、この場所に立った瞬間に心は決まっていた気がします。それほど、この山里を通る風が気持ちよくて本当に感激しました」

地域に根差した山を買う責任を自分たちで背負えるのか?

 500坪の土地を探していたなかで、その十倍以上の広大な山を購入する決断をした未織さん。しかし、契約引き渡しが終了するまでには、さまざまな問題を解決する必要があった。なかでも最大の難関だったのが、まさにこの敷地の「広大さ」である。実際、過去に何人かの購入希望者がいたそうだが、広い山の管理や草刈りの重労働などのハードルの高さで折り合いがつかなかったという。 「売主さんの意向として、この土地は一括してすべてを真剣に管理・保全してくれる人だけに使ってほしいとのことでした。たしかに、先祖代々守ってきた山を手渡す相手は心から信頼できる人じゃないと、っていうのは私たち夫婦も共通の理解でした。なので、売主さんにお会いしたときにも、その気持ちが痛いほど伝わってきて……。私もやる気と体力だけは自信があったので、この土地でがんばっていく本気度を懸命にお話しさせていただきました」
山を買う楽しみ

山の中腹に立つ築120年の母屋は不便なところも多いが、「意外と居心地がいい」とのこと。上水道、プロパンガス、電気などのライフラインは整っている

 その情熱のおかげで広大な里山を譲り受けることになった未織さんだが、もうひとつのハードルが、この山の地目のなかに「田、畑=農地」が含まれていたこと。基本的に農地の売買は農家だけに認められているため、農地を購入する場合は転用許可を得る必要があるのだ。しかし、未織さんが選んだのは、自分自身が農家になるという方法。これも大きなハードルではあったが、不動産屋や地元の農家、役場の人などが汗をかいてくれて、契約から2年後にようやく農地部分を本登記することができたのだ。 「ここを買えたのは運もありましたけど、やっぱり地元の方々の協力なしでは語れません。いずれにしても、山を買うというのはイコールその地域に根差している人々と生き様を共有すること。そこには当然、地域の一員としての責任が生じますし、それなりの覚悟も必要になってくると思います」 取材・文/西野弘章 撮影/林 紘輝
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山を買う楽しみ

人生を格段に豊かにする方法教えます

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