更新日:2021年11月02日 08:45
エンタメ

<マンガ>“ドラマ現場の待ち時間の悲劇・後編”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第五十三夜~

 とにかくコミュ障の役者・小野寺ずる。ある民放ドラマの撮影現場、ちょっとした待ち時間でさえ、彼女は“上手に話せないなら、話せない感じのオーラを出せばいい”という理由で、壁に向かい一人台詞の練習をしていた……。そんな彼女のドラマコラムの後編です。はたして、ずるは撮影現場で笑顔になれるのか――。 【前編を読む】⇒<マンガ>“ドラマ現場の待ち時間の悲劇・前編”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第五十二夜~

コミュ障女優に待っていた現実

「私も撮影現場で人の役に立ちたい」決心した私は考えた。 私が人の役に立てることはなんだろう。無表情で会話が下手、そのうえ相手によって態度を変えるこの姑息な人間には、飛び抜けた演技力も志もない。 それでも人の役に立てる部分はあるはずだ。私は変わる。与える側になる。そうして私は人の役に立てる自分の長所を考えることにした。 まず自分の長所を紙に100個書く心理カウンセリングの方法を試してみた。紙に書き出してみる。 ・律儀 ・前科がない ・健康 ・比較的嘘をつかない ・信心深い ここで筆は途切れた。5個。もうなかった。“真面目で神を信じる人間”ということだけがわかった。祈れということか?祈るだけではまた目を瞑ってうつむくだけだ、今と何も変わらないではないか。母に電話した。産みの親なら私の長所を知っているはずだ。 「あなたの長所ねぇ………………………………………………………………………。ひょうきん」 熟考した末にでた結論が、これだ。32年間、私のことを「ひょうきん」としか思っていなかったことがわかった。なるほど。“真面目で神を信じるひょうきん者”……。 ……私は武器無し戦略皆無で、また撮影現場へ戻ることになる。この日はいつも優しい俳優Kさんのシーンが多めだった。緊迫感ある中、Kさんの難しい長台詞が続く。私はKさんの役に立ちたかった。あんなに優しくしてくれているのに私はKさんに何も返せていない。祈るだけではダメだ。与えろ。Kさんのために、何か……私の良いところを発揮して何か、考えろ……。 そうだ……“真面目”だ。 私はいつもカメラに映っていない時でもずっと芝居を続ける。舞台での演技経験が多いからか、映っていなくても同じ空間にいる全ては影響し合っている、という考えから律儀に芝居を続ける。

真面目というのが私の答えだった

これだ。 映ってなくてもKさんのお芝居に影響があるぞ。ふんどしを締め直した。……これがいけなかった。自分本位な善意は脱輪しやすい。 ガチャーン!!! 「ご、ごめんなさい!」 カットカットカットォォ! ……。小道具を落とした。カメラの真裏で何一つ必要ではない演技をした中で誤ってKさんの長台詞をかき消すほどの音を立てて物を落とした。 その挙句パニックになり台詞じゃない謝罪の言葉を舞台仕込みの結構な声量で発した。撮影は止まった。NGだ。 長台詞を順調に撮り進めていたのに私のせいでNGになった。Kさんの横顔はつららのようだった。 「申し訳ありませんでした!」 「いいよいいよ、気にすんな〜」
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K兄は優しい
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'89年宮城県出身の役者、ド腐れ漫画家。舞台を中心に活躍後、'19年に「まだ結婚できない男」(関西テレビ)で山下香織役、'20年「いいね!光源氏くん」(NHK)で宇都宮亜紀役など、テレビドラマでも活躍の場を広げる。また、個人表現研究所「ZURULABO」を開設し、漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。好きな言葉は「百発百中」。 Twiter:@zuruart


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