更新日:2021年12月11日 16:56
エンタメ

『カムカムエヴリバディ』が好調。“朝ドラの常識”にないスピード感で視聴者を虜に

初回から視聴率が上がり続ける

 NHKの朝ドラこと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(平日午前8時)の人気が日に日に高まっている。
カムカムエヴリバディ

『カムカムエヴリバディ』公式HP

 11月1日放送の第1話の世帯視聴率は16・4%で個人全体視聴率は9・0%とやや低かったが、評判が評判を呼び、徐々に視聴率が上昇。12月1日の第23話では放送開始から最高値となる世帯17・7%、個人全体9・8%となった。その後、ぼぼ同水準を維持している。  なぜ人気なのか考察してみたい。まず脚本が出色なのは間違いない。これが支持を集めている第一の理由だろう。ドラマと映画をつくるにあたり、大切なものの順番は「1に脚本、2に役者、3に演出」と言われる。古くからの定説である。世界のクロサワこと故・黒澤明監督もこう言い残している。 「シナリオが1流なら、監督が2流、3流でも良い映画をつくることが出来る。だけどシナリオが3流では1流の監督がいくら頑張ってもうまくいかない」  だから藤本有紀さん(53)による脚本が評判高い『カムカムエヴリバディ』が人気を博すのは不思議ではない。

密度は濃いのに物語の進行が早い

 脚本のどこが優れているのかと、1つは中身がぎっちりと詰まっているにもかかわらず、物語が瞬く間に進むところ。だから、ひとときも観る側の気をそらさない。画面に釘付けにする。  旧来の朝ドラは物語がゆっくり進んだ。視聴者が忙しい朝に放送するため、進行が早いと、物語がよく分からなくなり、不親切だと考えられていた。進行がゆっくりしていると、ながら視聴の人も置いてきぼりにせずに済んだ。  けれどNHKは前作『おかえりモネ』から朝ドラに対する方針を変えた。朝、リアルタイムで観てもらうことに強く拘らなくなった。NHK副会長で放送総局長の正籬聡総局長は定例会見でこう明言した。 「最近はタイムシフトでご覧になられる方、NHKプラスなど見逃し配信で見ていただく方も増えています。いろんな視聴のあり方があると思いますので、そうした方々の反響も聞きながら、より良いドラマにしていきたい」(5月19日)  この方針変更によって朝ドラは自由度が高まった。『おかえりモネ』は朝ドラ特有の丁寧なナレーションや説明調のセリフを省き、視聴者に想像を楽しませた。  一方、『カムカムエヴリバディ』は物語の密度が濃いのに展開が早いから、片時も目が離せない。やはり旧来の朝ドラとは違う。ながら視聴派への配慮はないと言って良い。密度が濃いのに物語が猛スピードで進む例を挙げてみたい。
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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