更新日:2021年12月11日 16:56
エンタメ

『カムカムエヴリバディ』が好調。“朝ドラの常識”にないスピード感で視聴者を虜に

出征、出産、肉親の死を30分で

 第16話。上白石萌音(23)が演じるヒロイン・安子の夫で、「雉真繊維」の御曹司・雉真稔(松村北斗)が出征した。その後、安子の妊娠が分かり、1944年9月14日に長女・るいが生まれた。当初、安子が和菓子屋の娘で家格が違うとし、結婚に猛反対していた稔の父・千吉(段田安則)と母・美都里(YOU)も大喜び。安子も幸せをかみしめた。  第17話。安子はるいを連れて実家の和菓子屋に里帰り。母・小しず(西田尚美)と祖母・ひさ(鷲尾真知子)もやはり喜色満面だった。ところが小しず、ひさは1945年6月29日の岡山大空襲で命を落としてしまう――。  第16話と17話の計30分で、「最愛の人の出征」「新しい命の誕生」「大切な肉親の死」を描き切った。  どうしてそれが可能だったかというと、描く場面の選び方やセリフの紡ぎ方が絶妙だからにほかならない。藤本さんの技量の高さが表れている。  たとえば、稔は出征したものの、家を出る場面はない。旧来の朝ドラだったらありがちな近所の人による見送りなども全くない。父・千吉、母・美都里への挨拶もなかった。出征を控えた稔と安子のやり取りが描かれただけ。 安子「稔さん、どうかご無事で、ご無事で、帰ってきてください・・・」 稔「安子、泣くな。大丈夫じゃ。きっと帰って来る」  短い場面だった。けれど、物足りなさは感じさせず、むしろ十分だった。ヒロインと最愛の夫の別れが見どころなのだから、近所の人による万歳三唱などがあったら、観る側は興ざめだったろう。

ヒロインに幸せと不幸せが交互に…

 脚本の妙はこれに留まらない。安子に幸せと不幸せがほぼ交互に訪れる構成になっている。だから観る側も一喜一憂。より物語に引き込まれてしまう。  禍福を交互に描く脚本は単なるウケ狙いではないだろう。誰の人生も幸運と不運は代わる代わるに訪れがち。「禍福はあざなえる縄のごとし」である。  例は第20話。安子に幸せと不幸せが交互にやってきた。まず安子の父・金太(甲本雅裕)が突然死してしまう。戦時中の苦労で体が酷く衰弱していたためだった。直後にうれしいことがある。義弟で幼なじみでもある勇(村上虹郎)が復員した。 「はよ兄さんも帰ってくるとええな」(勇)  安子は期待に胸を膨らませる。だが、間もなく稔の戦死の報せが届く――。  やはり、たった15分にこの話を収めた。「肉親の死」「義弟で幼なじみの生還」「夫の死」。これだから、やはり目が離せない。
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演者の表現力にも注目
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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