更新日:2021年12月11日 16:56
エンタメ

『カムカムエヴリバディ』が好調。“朝ドラの常識”にないスピード感で視聴者を虜に

上白石萌音の表現力が凄い

 脚本のみならず、もちろん役者陣の演技も秀逸。上白石は安子の喜びと悲しみをごく自然に表している。あるドラマの演出家に教えてもらったことだが、役者と歌手を兼業している人は演技力がある人が多いという。たとえば松たかこ(44)、柴咲コウ(40)、高畑充希(29)である。表現力が問われるという点では演技も歌も一緒なのだろう。  上白石もユニバーサルに所属する歌手。やはり表現力の高さを感じさせる。たとえば第3話、14歳だった安子は「はようパーマネントがかけられますように」と神社にお祈りする。上白石はどこから見ても無邪気な安子だった。  第12話。16歳になった設定の安子は交際していた稔に別れを切り出す。大好きだったが、雉真家が付き合うことに猛反対したためだ。 「(日米開戦で)ラジオの講座がのうなったら、おぼえた英語わすれてしもうた。稔さんのこともきっと忘れられます」(安子)  声に力がなく、覇気も感じられず、まるで幽鬼のようだった。理不尽な理由で純愛に破れると、こうなるのだろうと思わせた。やはり上白石が苦しむ安子にしか見えなかった。表現力の高さを感じさせた。  第25話。安子はるいとの暮らしを守るために死にものぐるいで働いていた。だが、それがたたり、自転車で事故を起こす。上白石は全身から疲れた雰囲気を出していた。セリフは不要だった。

助演者たちの名脇役ぶりが光る

 助演者たちも絶妙の演技を見せている。その1人は稔の父・千吉を演じている段田安則(64)。元「夢の遊眠社」(主宰・野田秀樹氏、1992年解散)の看板役者の1人だけに、その演技は圧巻だ。千吉は第14話まで稔と銀行家の娘を結婚させようとしていたが、第15話で一転、安子と結婚させる。学徒出陣する稔が、戦地に赴く前に好きな安子と一緒にさせてやろうと思い直した。  そうと決めると、千吉のほうがはしゃいだ。駅まで行き、稔を出迎え、「待ちきれなんで、迎えにきたぞ、行こう」と、声を弾ませた。安子の待つ神社へ急がせた。  憎まれ役だった千吉が急に善人になっても誰も違和感をおぼえなかった。そもそも人は得てして考えが変わるものだが、それをごく自然に見せたのは段田の力だろう。  ちなみに段田は故・森光子さんに演技力を買われ、直々に共演を依頼されていたほど。ヒロインが2カ月ごとに代わるため、安子の登場は残り1カ月を切ったが、まだまだ見せ場がある。(視聴率はビデオリサーチ調べ) <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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