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『二月の勝者』中学受験のリアルを突く柳楽優弥“黒木”の台詞が刺さりまくるワケ

理由2 情報がある

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写真はイメージです

「偏差値45の生徒が5ポイント上の偏差値50の学校に受かることはままあります。しかし偏差値55の生徒が60の学校に受かるのは非常に稀です」(黒木、第9話)  黒木によると、偏差値55くらいまでの中学は入試で基礎学力を問う。一方、同50台後半の中学は応用力を試す。これが「偏差値58の壁」なのだそうだ。この件を含め、現実の中学受験関係者たちは、この作品の情報の正しさに太鼓判を押している。原作漫画の作者である高瀬志帆さんの取材が行き届いているからだろう。  ドラマに情報が盛り込まれていたら、観る側の知的好奇心がくすぐられる。だが、そう簡単には盛り込めない。やり損ねると、マニュアルビデオや再現ビデオのようになってしまう。けれど、この作品は情報の挿入するのがうまい。第8回もあまり知られていない情報が紹介された。開成中(東京・西日暮里)の奨学金制度である。

開成をあきらめる順に黒木は

「桜花」で成績が1位の生徒・島津順(羽村仁成)は開成中への進学を希望していた。開成中は中高一貫校で、東大合格者数が40年連続でトップの学校なのは知られている通り。けれど、順の受験をめぐって父親の弘(金子貴俊)が暴君と化し、家庭が崩壊したため、母親の優子(遠藤久美子)は順を連れて家を出る。学費に困ることが見込まれたことから、母子は開成中受験をあきらめる。だが、黒木は母子にこう進言する。 「もしも経済的に私立の進学が難しいとお考えなら、学費の格安な国立や都立の中高一貫校もあります。そういった学校もご検討いただけたらと思います」(黒木)  これを順は「俺はもうやめるんだって」と突っぱねる。レベルの高い中学なら、どこでも良い訳ではなく、全国の中学のトップに立つ開成中を受験したかったのだろう。すると黒木は「最後にもう1つだけ提案させていただけないでしょうか」と静かに言った。そして開成中の奨学金の説明を始めた。この奨学金は入学金、授業料、施設拡充費などが全額免除になる。その額は中学と高校で約476万円に達する。対象は年間所得218万円以下か、給与収入の収入額が400万円以下の世帯の子弟。運営費は同窓会が出している。 「経済的理由は順さんが開成をあきらめる理由にはならないということです」(黒木)  奨学金制度のある私立中は開成中ばかりではないとも口にした、やはり情報がある。
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黒木というキャラクター
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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