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「日本のコロナ水際対策は甘い」と叩く人たちの誤解。元空港検疫所長が明かす

検疫所で確認される陽性者が急増している

――ある国と日本のPCR検査の条件が違えば、陽性の人も陰性診断になるということですか。 田中:最近、検疫所で確認される陽性者の数がとても多く、100人を超えています。ちなみに、オリンピックで入国者がもっとも多かった昨年7月18日でも、検疫での陽性者は8人でした。感染力の高いオミクロン株が猛威を奮っているとはいえ、これこそ検査の精度管理の問題を象徴的しているといえるでしょう。 ――入国には「出国前72時間以内の検査証明書」の提出が義務付けられていますが、それが信用できないということですか? 田中:出発までに感染してしまった可能性ももちろんありますが、症状がある陽性者もいるようですので、やはりいい加減な精度の検査も行われていると言わざるをえません。先方の精度管理ができていなければ、陰性証明は無意味ということになります。

現場を理解してない批判は足かせになる

――だからこそ空港での検査が重要で、批判者は「空港検疫をPCR検査に戻してください」と言うんでしょうけれど……。 田中:PCR検査なら感度が良く安心だ、という単純な話ではない、ということです。PCR検査だとしても精度管理まで考えなければ、信用に足るものにはなりません。 検疫所ではサイエンスの観点に加え、状況や体制に応じて、目的に叶う施策を取捨選択しています。いろんな意見があってしかるべきですが、少なくとも現場を正しく理解したうえの批判であってほしいと思います。現場への不信感が生まれ、現場に余計な負荷がかかってしまっては、それこそ水際対策への足かせになります。 ――空港検疫は今も大変ですしね。 田中:今は(静岡市保健所長に)立場が変わり、報道を通じて検疫所の様子を知るだけですが、検疫官や職員は賢明に業務に当たっています。批判の眼差しだけで見るのではなく、エールを送ってもらいたいと思っています。 【前回の記事を読む】⇒オミクロン株、弱毒でも楽観してはいけない深刻理由。空港検疫の元トップが警告する <田中一成   取材・文/鈴木靖子>
元厚生労働省成田空港検疫所長。静岡市保健所長(2021年10月より)。 1987年、山口大学医学部卒業。1991年、山口大学大学院医学研究科修了、医学博士。山口大学医学部助手、厚生省健康政策局医事課試験免許室試験専門官などを経て、2007年、JAXA有人宇宙技術部宇宙医学生物学研究室主幹開発員。2010年、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課ゲノム研究企画調整官。2011年、内閣府参事官(ライフイノベーション担当)。2012年、厚生労働省神戸検疫所長。以降、同・東京検疫所長、同・北海道厚生局長を経て、2018年、同・成田空港検疫所長就任。著書に『子供に教えるためのプログラミング入門』、『算数でわかるPythonプログラミング』、『成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪』がある。
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