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「日本のコロナ水際対策は甘い」と叩く人たちの誤解。元空港検疫所長が明かす

新型コロナウイルスの発生から丸2年が過ぎ、目下、オミクロン株による第6波の真っ只中。一方でウイルス自体は弱毒化していて、いよいよこのパンデミックの「おわりのはじまり」という見方もある。
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画像はイメージです

いずれにせよ、一刻も早い収束を祈るばかりだが、新型コロナウイルスが発生して以降、注目され批判され続けていたのは日本の「水際対策」の甘さだ。その最前線である成田空港検疫所長を2021年9月まで務めた田中一成氏(現:静岡市保健所長)に、話を聞いた。 田中氏は、近著『成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪』に、批判を浴びながら“水際”で闘い続けた600日を記録している。 【前回の記事を読む】⇒オミクロン株、弱毒でも楽観してはいけない深刻理由。空港検疫の元トップが警告する 成田空港検疫で何が起きていたのか

誤解にもとづいたクレーム電話が殺到

――この2年、検疫所は折に触れ、批判にさらされましたね。 田中一成(以下、田中):責任者として批判は真摯に受け止めつつ、検疫に対する誤解も大きいと感じていました。 たとえば、2020年1月末、検疫所にクレーム電話が殺到し、業務困難な状況に陥りました。その内容は、「なぜ、中国からの入国を止めないんだ!」というものです。でも、検疫所が外国人の入国管理をしているわけではありません。その権限を持つのは、法務省管轄の入管庁です。こうした誤解は多かったですね。 ――「水際=検疫」というイメージは強いです。 田中:海外と日本の境界線は、税関(Custom)、入管(Immigration)、検疫(Quarantine)のCIQがそれぞれの持分で守っています。ただ、全部が全部、検疫の責任だと言われても、それは困ってしまう。責任転嫁ということではなく、それぞれ所管法令のもとに業務を行なっているからです。 東京オリンピックで選手が一般客とハイタッチをし、「バブル崩壊」と言われたのも同様です。検疫エリアを通過した選手の行動監視まで、検疫ができることではありません。

検疫の人数が削られていた中でのパンデミック

――先日上梓された『成田空港検疫で何が起きていたのか』では、法律を含め、定められた枠組みや制約、予期せぬトラブルが発生する中、検疫業務が行われていた様子が描かれています。 田中:検疫所が混乱に陥っていたのは事実です。ただ、それには一つひとつ原因があり、むしろ、今回のパンデミックが日本の検疫システムが抱えていた問題点を露呈させたともいえる。 たとえば当時、「空港検疫で大行列」と報じられました。成田空港の構造的な問題や一部の入国者の心ない態度など、その理由はいくつかあるのですが、マンパワー不足もその一つです。 ――人手が足りなかった。 田中:もともと、ギリギリの人員で検疫業務を回していたところにコロナの対応が加わったわけで、それは行革の流れの中、人員が削られてきたという背景があるわけです。批判するのは簡単ですが、発生した問題には理由や事情がある。現場の検疫官や職員らはままならない状況の中、最善を尽くしていた。それは、理解してもらいたいと思っていました。
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水際対策の目的は「時間稼ぎ」
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