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「長引くコロナ禍の日々。いまは何げない話を書いて“しまう” 」松居大悟監督が映画で描きたかったこと

この映画の主人公は、あくまで日常

 主観一辺倒ではなく、客観視できるようになったからこそ生まれた、洗練された作品作り。その共通認識は「この映画の主人公は、あくまで日常。観てくれた方々が、それぞれが過ごしてきた年月や時間をちょっと思い出してくれたら」という本作のコンセプトにもつながっている。作品の構造におけるアイデアも、視野が広がったからこそ生まれたものだという。 「映画は時間、演劇は空間を描ける芸術だと昔は思っていました。今回も、最初は時間軸や時系列についてすごく貪欲であろう、他の映画監督がやっていない方法を考えようと意気込んでいたのですが、あるタイミングで『そういうのはもういいか』と肩の力が抜けた。  その結果、定点観測でさまざまな人の生活を描く形式に辿り着けました。あと、前作の『くれなずめ』のときに、自分が意図していなかったホモソーシャル的な切り取られ方をされてしまうことがあったんです。そこで今回は、いろんな方に読んでもらったり、言葉遣いなどもかなり意識しました」

コロナ禍の描写も

 本作ではコロナ禍の描写も取り入れられている。 「昨年や一昨年はとにかくハチャメチャに明るく、何も考えずに楽しめるものを作ろうと考えていました。それは、コロナが一過性のものだと捉えていたから。ところが、この状況がもう少し続きそうだぞとなって、いまは何げない話やちょっとほっとする話を書く――というより、書いて“しまう”ようになりましたね。僕自身、映画を観るにしても優しい話や何げない話に心が救われるようになりました」  積み重ねてきた年月と、時代の感度を作品にビビッドに反映してきた松居監督。旧友たちと新たなフェーズに到達した本作を経て、次はどんな世界へと向かうのだろうか。
松居大悟ちょっと思い出しただけ』 監督・脚本/松居大悟 主演/池松壮亮 伊藤沙莉 制作・配給/東京テアトル 全国公開中 【松居大悟】 ’85年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。’12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。主な映画作品に『スイートプールサイド』『アズミ・ハルコは行方不明』『くれなずめ』など。テレビ東京ドラマ24『バイプレイヤーズ』シリーズではメイン監督を務めた 取材・文/SYO 取材/村田孔明(本誌) 撮影/山野一真
物書き。’87年福井県生まれ。映画を中心に、アニメやドラマ、本、音楽などの取材やコラム執筆、イベントMC等を手がける。「装苑」「CREA」「CINEMORE」「シネマカフェ」「FRIDAYデジタル」「映画.com」などの雑誌、Web媒体に寄稿。ツイッター@SyoCinema
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