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なぜ日本政府は、米軍基地からコロナ感染者続出でも物言うことすらできないのか?

朝貢リストとしての年次改革要望書

―― 「自民党+米国」のセットしか政治的選択肢がないという強烈な固定観念をなぜ崩せないのでしょう? 福島 戦争に負けたトラウマと冷戦思考から抜け出せていないからでしょう。本当は、平成元年12月29日に日本証券取引所の株価が史上最高額の3万8915円を記録し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた時代に、日本人はその富に等しい誇りと品格を持たなければいけなかった。エコノミックアニマルとしての家畜から文明人にならなければいけなかった。しかし、そこでギアチェンジができなかったために未だに家畜人なのです。家畜でいれば、ご主人さまに餌を与えられると思いこみ、惰眠を貪っている。それが日本転落の一番の原因です。 ―― 政治家にとって、米国と仲良くしておくとどんな得があるんでしょう? 福島 私が官僚として経産省にいた時、いわゆる年次改革要望書の作成に携わっていました。実はあれは日本人が書いています。米国は日本のマーケットにそれほど興味はない。むしろ日本が米国に振り向いてもらうためにリストを作っていたというのが実態で、日本の総理が訪米する時に携える朝貢リストなのです。その作成を手伝っていたので、おそらく当時米国人たちは私を親米派だと思っていたでしょう。だから私が2009年に国会議員に初当選したときには、私の好きなカリフォルニアワインが当選祝いとして議員会館に届きました。その後も大使館に特別のブリーフィングに呼ばれたりして、親しく付き合っていました。しかし、TPP反対を表明すると、米国大使館の友人がこう忠告に来たのです。「福島さん、TPPに反対したら反米的な人物だと思われます」「日本では反米のレッテルを貼られたら生きていけません」と。  しかし、東京の両国で江戸時代から商売を営む私の家は米軍の空襲で大変な目にあった。神楽坂にあった立派なお屋敷も全て焼かれた。命より大切にしていた書画骨董も全て灰になった。福島家は戦争で没落した家系なのです。曽祖父は傷心のなか死んでいきました。でも、そんなうちよりも、家族を亡くし、財産を亡くし、もっと悲惨な目に遭った人の話を、幼少時に祖父母から聞いてきました。私は米軍が無辜の民を殺戮し、貴重な文化財を焼き尽くしたことを忘れていない。だから、いずれ米国ともう一度戦う時は勝つつもりで役人をやっていたんだということを伝えたら、「福島先生がそんなことを思っているとは考えていなかった」と驚いていました。それからは米国大使館からお祝いもお誘いもなくなりました。 ―― 日本は米国の核の傘に守ってもらっているんだから、米国に頼るしかないという意見をどう思いますか? 福島 そういうあなたは何を守りたいんですか? と問いたい。命でしょうか? 金でしょうか? それよりも我が国、我が民族が歴史的に育んできた価値観を守ることの方が大事なのではないでしょうか。米国の核の傘がないと生きていけない、9条を改正しないと生きていけないという議論の安っぽさは、守るものが所詮は命や財産でしかないからです。人間にはもっと大事で根本的な守るべきものがあるはずです。「たとえ核兵器が落ちようとも日本の大切なものは絶対に守り抜く」と腹を据えることが必要なのではないでしょうか。自分たちは核を持たない、でも米国の核の傘に守ってもらいます、というのはまさに家畜人の発想です。逆に日米同盟を廃して核武装せよといったことを言う奴も詐欺師か愚か者です。 ―― ただ、民主党政権の迷走を見て、やはり対米自立的な姿勢を打ち出すと政権が倒れるということを感じ取った人もいるのではないでしょうか? 福島 民主党政権ができた当初は本当に戦後の自民党政治を転換するんだという期待が国民にもあったと思います。普天間飛行場の辺野古基地移設問題についても、当初は米国との関係を仕切り直すんだという意欲がとても強かったと思います。しかし、結果的には失敗に終わった。鳩山由紀夫総理は米国の虎の尾を踏んだと言われましたが、鳩山家は対米自立路線が代々染みついている家系です。だからお祖父さん、お父さんから受け継いだ信念でやったんでしょうが、政治的手腕は極めて拙かったと言わざるを得ない。それは鳩山さんだけのせいじゃなくて、民主党自身に米国から自立するという厳しい道を歩むことの覚悟がなかったからです。虎穴に入るつもりで、大変な覚悟を持って言ったのか、それとも単なる選挙目当てのパフォーマンスだったのか。私はパフォーマンスだったとは思いませんが、結果的にそう見えてしまっても仕方のない結果になってしまった。対米自立を図るということの覚悟や重さを実感しないまま、人気取りで自民党と違うことを言おうという程度の人も実際いました。そのための周到な根回しや準備が決定的に足りなかった。そこは反省しなければいけませんが、その後の菅直人氏、野田佳彦氏は反対に米国のご機嫌伺いに必死でしたね。まだ鳩山政権の方がましだったと思います。 ―― 官僚の抵抗はあったのでしょうか? 福島 単に官僚を使う政治的手腕がなかったというだけです。官僚機構にとって民主党政権は都合が悪かったというのは神話です。私の周りでは歓迎している人も多かったですよ。ようやく古臭い自民党政権が終わったと喜んでいた官僚も多いのです。しかし、民主党政権は官僚の使い方がわからず、未熟な政治家達が官僚の仕事を代わりにやろうとし、本来政治家がやるべき仕事を政治家がやらなかったから崩壊したのです。 ―― 民主党政権の失敗を官僚に責任転嫁していると。 福島 民主党の政治家が未熟だったということです。それはしょうがない。経験がないのですから。覚悟もなく丸腰で虎穴に入って、トラに噛まれてしまった。そこで、ちょっと痛い思いをしたら、余計にトラが怖くなってしまった。覚悟が圧倒的に足りなかったのです。 ―― 沖縄県や静岡県の知事が日米地位協定を見直した方がいいのではないかと声を上げています。 福島 日米地位協定の見直しは憲法問題とワンセットで考えなければいけません。憲法を変えないで地位協定だけ日本に都合がいいように変えようとするのは、単に米国というご主人様に対する待遇改善要求に過ぎません。憲法改正は、この国が真の独立国家として何を価値の基準にするのかということを国民自らが決めることです。私たち国民自らの手によって真の独立を成し遂げることこそが、日米地位協定の改定につながるのです。 (1月31日 取材・構成 杉本健太郎 初出:月刊日本3月号) ふくしまのぶゆき●前衆議院議員 元経済産業省官僚
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2022年3月号

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【特集2】〝認諾〟で真相を闇に葬った岸田政権
【特集3】東アジア不戦推進プロジェクト

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