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神宮外苑再開発、私利私欲のための再開発は許されない<経済思想家・斎藤幸平>

―[月刊日本]―

私利私欲のための再開発

―― 斎藤さんは神宮外苑再開発の認可取り消しを求める訴訟の原告に加わっています。新著『コモンの「自治」論』(集英社)では、神宮外苑を〈コモン〉と捉え、乱暴な再開発を厳しく批判しています。 コモンの「自治」論斎藤幸平(以下、斎藤) 〈コモン〉とは日本語では〈共〉とも訳される概念で、特定の人物や企業が独占するのではない「共有物」を意味します。たとえば、村落全体で共同管理されてきた入会地や河川水などもそうです。逆に水道事業を民営化して、企業の利益のために使うのは、〈コモン〉の破壊です。  私が神宮外苑の再開発に反対しているのは、外苑も〈コモン〉に当たり、事業者の利潤獲得の手段に使われるべきものではないからです。  しばしば「神宮外苑は明治神宮が地権者だから、どう使おうが明治神宮の勝手だ」などと言われますが、果たしてそうなのか。外苑の4分の1は国有地ですし、それ以外の神宮外苑も非常に公共性の高い土地であり、地権者だからと言って何をやってもいいというわけではありません。  外苑の公共性の高さは歴史的な経緯から見ても言えることです。神宮外苑は明治天皇を称えるという趣旨のもと、100年後の東京を見据えて建造されました。その際、国民に献金や献木を呼びかけたところ、多くの寄付が集まりました。いまで言うクラウド・ファンディングです。ボランティアも大勢働いた。つまり外苑は市民の手によってつくられた、市民のものだと言ってもいい。戦後に神宮外苑が明治神宮に払い下げられたときも、公共のために利用し、しかも民主的に管理するという条件つきでした。  創建時の背景には天皇崇拝や帝国主義的なモチーフが関わっていて、私自身はそれらに批判的ですが、神宮外苑が私利私欲のためにつくられたものでないことは明らかです。だからこそ、外苑周辺は100年にもわたって美しい景観を保ち、多くの人たちを惹きつけてきたのです。  しかし、今回の再開発が実行されれば、この100年の歴史を持つ〈コモン〉=共有財が破壊され、新宿のような高層ビルが建つことになります。また、ビルの用地を捻出するために、神宮球場と秩父宮ラグビー場という歴史ある競技施設が、壊され、改悪した形で場所を入れ替えて再建設されます。神宮第二球場などアマチュア・スポーツのための施設も廃止です。新たな神宮球場の外壁は銀杏並木のすぐ脇につくられるので、地中に深く打たれる壁の杭が木々の根を痛めつけ、銀杏が枯死すると見られています。  気候危機の観点から考えても、これは世界の流れに逆行する開発です。たとえば、ニューヨークはヒートアイランド現象への対策として2007年以降、100万本の街路樹を植え、さらに100万本を植えようとしています。パリも五輪開催に合わせて凱旋門やコンコルド広場で緑化を進めています。こうした中、日本だけが木々を伐採しているのです。  しかも、その陣頭に立っているのは、SDGs(持続可能な開発目標)を掲げているはずの大企業です。彼らの謳うSDGsは口先だけだったということでしょうか。目先の利益を生むために〈コモン〉を破壊し、金儲けの道具に変えようとする再開発は、決して許されないと思います。

指導者のいない社会運動

―― 神宮外苑再開発は〈コモン〉を破壊すると同時に、「自治」という点でも問題が多く、住民の意思がまったく反映されていません。 斎藤 〈コモン〉は共有財として多くの人が積極的に関与しながら管理されるべきものなので、「自治」と密接に関係しています。神宮外苑も〈コモン〉ですから、地域住民をはじめ市民たちがきちんと議論し、合意形成を図る必要があります。  しかし、事業者には市民の声を聞く姿勢がありません。外苑問題にかぎらず、一部の政治家や大企業、富裕層が自分たちに有利なルールをつくり、ますます社会を私物化していくという悪循環が生じています。  こうした中で「自治」の重要性を訴えるのは、あまりにも理想主義的だと思われるかもしれません。力の弱い市民が声をあげても効果がないと感じる人も少なくないでしょう。  しかし、一人ひとりが声をあげれば、確実に世の中を変えることができます。実際、外苑再開発反対運動に「自治」の萌芽が見てとれます。  私が再開発反対の輪に加わってわかったのは、このムーブメントには「たった一人の指導者」の存在や、立派な組織を持つ「大きな団体」がないということです。東京五輪開催前の新国立競技場問題以来、10年以上にわたって神宮外苑再開発の問題点を粘り強く情報発信してきた大人たちがいるかと思えば、クラウド・ファンディングによって環境評価調査の費用をつくり、その結果を発表している大学生の団体もあります。デザインに強い人は再開発の問題点を指摘するチラシや動画をつくり、法律や条例に詳しい人たちは都議会や区議会を傍聴し、議員たちと連携を深めています。  音楽家の坂本龍一さんが亡くなる直前に小池百合子東京都知事に再開発反対の手紙をあてたことが大きく報道されましたが、坂本さんがこの問題にコミットしたのも、一人の市民が彼にメールを送ったからだそうです。また、坂本さんの遺志を継ぐというミュージシャンたちが音楽を使ったデモンストレーションで、神宮外苑に6000名を集めましたが、その運営にも多くの市民たちが手弁当で関わっていました。こうした一人ひとりによる多彩で地道な運動があったからこそ、外苑再開発反対運動は多くの注目を集めるようになったのです。
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カリスマがいなくても社会運動は広がる
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【特集①】関東大震災・朝鮮人虐殺100年 過ちを繰り返すな!
内田 樹 「歴史の暗部」を語り継げ
安田浩一 再び虐殺が起きないと言い切れるか
高橋公純 私は命が尽きるまで懺悔の心を持ち続ける

【特集②】神宮外苑再開発を即時中止せよ
斎藤幸平 私利私欲のための再開発は許されない
高山住男 デベロッパー・三井不動産の正体
本誌編集部 公開書簡「神宮外苑再開発の即時中止を求める」

【特別インタビュー】
山崎 拓 政治の劣化を憂う 国家に立ち向かう人材がいない!
中島岳志 『君たちはどう生きるか』への違和感 岩波茂雄と吉野源三郎の違いを考える
逢坂誠二 石橋湛山没後50年 日本再生の鍵は地方自治にあり


コモンの「自治」論

『人新世の「資本論」』、次なる実践へ!

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