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町田啓太主演『テッパチ』にみる、自衛隊ドラマが“タブー”でなくなった理由

自衛隊の卵たちにスポットを

テッパチ!

番組公式ホームページより

 町田啓太(32)が主演し、自衛官候補生たちの青春が描かれるフジテレビの新連続ドラマ『テッパチ!』(水曜午後10時)が6日に始まる。ドラマと自衛隊の関係の分岐点となる作品になりそうだ。  18歳から32歳までの若者が集まる陸上自衛官候補生たちにスポットが当てられる。自衛官候補生たちの群像劇はドラマ界で初めて。陸自の自衛官候補生たちは3カ月の教育期間終了後、2等陸士に任官する。  過去のドラマに登場した自衛官は防衛大卒組やパイロットらエリートばかりだったが、2等陸士は17ある陸自の階級で1番下。しかし、有事の際に最前線に立ち、災害派遣時には体を張って住民を救うのは彼らである。最も身近な自衛官の卵たちを描く物語となる。  自衛隊ドラマは警察ドラマと比べると圧倒的に少ないから新鮮だ。ただし、このドラマが成功を収めたら、一気に増えるのではないか。というのも自衛隊の好感度が高まっているからである。好感度の高い組織や仕事のドラマは増えるのは歴史が証明している。内閣府の世論調査業務などを請け負っている中央調査社の最新調査(2021年)によると、公的機関や公人の中で最も信頼されているのは医療機関。次いで自衛隊だ。前回2019年の調査では自衛隊がトップだった。  警察はかなり差を付けられて3番目。以下、銀行、裁判官、教師、官僚と続く。なお、日本経済新聞が2019年1月に公表した信頼度調査では自衛隊がトップだった。

「自衛隊の宣伝ドラマ」と批判された歴史も

 半面、ドラマ界は世間を写す鏡だから、自衛隊を見る目が厳しかった時代はドラマづくりも至難だった。1962年にはドラマ『東芝日曜劇場 ひとりっ子』(制作=福岡・RKB毎日放送)の放送中止問題が起きた。TBS系列で全国放送されるはずが、社内外から「内容に反自衛隊色があるのではないか」という声が上がり、放送が取りやめられた。  こんな物語だった。兄が戦死している受験生(故・山本圭さん)が主人公で、腕試しに防大を受験したところ、合格する。だが、我が子を戦争で失っている母親は防大進学に猛反対。佐藤オリエ(79)が演じたガールフレンドも反戦意識から反対した。結局、主人公は防大進学を取りやめる。  このドラマの場合、「反自衛隊色がある」と問題視されたが、逆に「親自衛隊色がある」と指摘されたドラマもあった。1964年に日本テレビが放送を予定していた連続ドラマ『列外一名』である。  自衛隊員の実像を描く物語で、26回の放送を予定し、13回まで制作が終了していたものの、各種団体が「自衛隊の宣伝ドラマ」と猛批判の声を上げた。このため、やはり放送を中止した。立て続けに起きた放送中止劇。背景には1960年代から1970年代までと今では自衛隊に関する世論が大きく違うという事情がある。  内閣府によると、2018年の世論調査で自衛隊に良い印象を持っている人は全体の89.8%に達し、悪い印象を持っている人は5.6%に過ぎなかった。一方、沖縄県が返還された1972年の調査では自衛隊に良い印象を持っていた人は58.9%に過ぎず、悪い印象を持っていた人は24.3%にも達していた。ドラマづくりが難しかった訳だ。
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金八先生が扱った自衛隊問題
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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