ライフ

藤井聡太の将棋には「華がある」。負け戦でも見せ場を作れるワケ

藤井聡太の将棋には「華がある」

藤井聡太岡部:劣勢になっている藤井将棋を見るのも好きなんですが、悪くなってからが本当に粘り強いですよね。 高野:そこに大きな特徴があるんですよね。ポッキリ折れの将棋がないんですよ。2021年度でいえば、王位戦の1局目だけかな。 さくら:豊島さん(将之九段)との対局ですね。 高野:そう。大差で負けたのは、あれくらいじゃないですか。どんなときも、ギリギリの終盤戦で「藤井の王様はなかなか詰まない」と思わせるのは、すごいことです。あと負けた将棋であっても、なにかひとつ見せ場をつくるんですよ。あれも、普通はできることではないです。 さくら:藤井さんは、勝っているだけでなく将棋が面白いですよね。 高野:華がありますよね。思わず膝を打つような、棋士の誰もがこんな手を指せたらいいなという手がよく出てきます。それは安全勝ちをするというより、ギリギリのところを攻めて勝っていくからこそ生まれていると思います。 さくら:ギリギリのところを攻められるのは、やはり詰将棋の力があるからですか? 高野:だと思います。詰将棋って、正解の道が一本しかない。なので、攻めも自然とギリギリのところを行くようになるのでしょう。また、自分の「玉」と相手の攻めの距離感を保っていることも大きいですね。「危なそうだけど、まだ詰まない、大丈夫」と思えば、攻めることができますから。 岡部:安全勝ちをしない。

「全員攻撃、全員守り」の将棋

高野:昨年度、安全勝ちをしたのは竜王戦の挑戦者決定戦・永瀬戦の第2局くらいじゃないかなぁ。この対局は私が観戦記を書いたんですが、手厚く勝ったんですよ。だからどうしても勝ちたかった一局だったように感じました。 さくら:あまり玉を囲わないので、最後までハラハラしますよね。 高野:彼は、圧倒的な受けの力があるので、駒がバラバラになっても受け止める自信があるんですよね。ここも藤井将棋が面白い理由かもしれません。 岡部:あまり囲わないから面白い。 高野:玉が堅いということは、そこは動かないから、動く駒が少ないのは事実ですよね。でも、藤井将棋は、囲わないから全部の駒が動くんですよ。大駒が大きく動きやすく、角や桂馬がダイナミックに働く。銀も斜めから後ろに戻るみたいな動きが多い。これも面白さのひとつでしょうね。 さくら:まさに「すべての駒が躍動している」ですね。 高野:そうそう。全員攻撃、全員守りなんですよ。藤井将棋は、最後に思わぬ駒が働いてくる。「実はあなたが主役だったの」って感じのことが多いですよね。 さくら:なんか伏線を回収してるみたいですね(笑)。
藤井聡太

図解「藤井聡太、八冠ロードの現在地」

【棋士 高野秀行】 1972年、横浜市生まれ。中原誠十六世名人門下。日本将棋連盟六段。「経堂こども将棋教室」を主宰し、子どもたちに将棋を教える 【ライター 岡部敬史】 1972年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ライター・編集者。文春オンライン「観る将棋、読む将棋」でも執筆 【観る将漫画家 さくらはな。】 千葉県出身。漫画家。2013年5月に突然将棋を始める。竹書房『本当にあった愉快な話』にて「えりりんの女流棋士の日々」を連載中 写真/産経新聞社
1
2
あの棋士はどれだけすごいの?会議

気になるギモンにプロ棋士が明朗回答

おすすめ記事
ハッシュタグ