更新日:2022年08月19日 11:27
エンタメ

『ちむどんどん』に沖縄の人が怒ってる? 批難される理由と本当の評価

広げた大風呂敷を畳めるか?

 1970年代に都内で砂川智(前田公輝)が軽3輪トラックに乗っているなど時代考証には首を捻る場面がいくつかあるが、かつての沖縄の再現には力が入っているようだ。制作陣の沖縄への誠意の表れなのだろう。  9月30日の最終回まで残り1カ月半弱。今後はどうなるのか。制作陣は賢秀、良子(川口春奈)、暢子、歌子(上白石萌歌)の本土復帰からの50年を描くというから、まだ40年以上ある。随分とタイトな進行になる訳だが、どう見せる?   万一、ジョン・カビラ(63)のナレーションで、「はい、はい、30年が過ぎましたよ」なんてやったら、また誹りを受けかねない。広げた大風呂敷を畳まないことになる。正念場だ。  比嘉家4兄妹にとって本土復帰とは何だったのか? それを描かないと、復帰50周年記念作である意味が半減する。せめて4兄妹が返還をどう思っているのかくらいは見せてほしい。

登場人物にはイラッとさせられるけれど

 朝ドラだからシリアスな問題に踏み込むのが簡単でないのは分かる。脚本を書く羽原大介氏(57)にとってもそれが一番悩ましい問題であったはず。沖縄返還後の50年は、朝ドラでは正面から描けそうにない本土との経済格差、米兵たちによる鬼畜のごとき犯罪と県民の猛烈な怒り、米軍施設の約70%が集中する圧倒的不公平を抜きにして語れないからだ。  現時点までに描けた沖縄の素顔は、県人同士が寄り添って不当な偏見に抗った横浜市鶴見区の沖縄県人会、優子が振り返った米軍による那覇市への無差別爆撃「10・10空襲」(1944年)、遺骨収集する嘉手刈源次(津嘉山正種)が語った「沖縄戦」(1945年)。これに留まるのかも知れない。  ただし、これを描いたことは評価されるべきだ。明るく愉快でハッピーなだけの物語にしてしまったほうが、はるかに簡単に紡げるのだから。沖縄の「光」と「影」を描こうとしているのは分かる。  もっとも、明日からはまた暢子、和彦、賢秀らにイラッとさせられるに違いない。朝から「オイオイ!」と言いたくなるはず。それでも見せちゃうのだから、視聴者を惹くのがうまい。奇特な朝ドラである。<文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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