更新日:2022年11月18日 20:44
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椎名林檎、グッズ炎上への“遅すぎる”対応で失った「ふたつの信用」

失った“ふたつの信用”

椎名林檎

椎名林檎『日出処 通常盤』/Universal Music

 こうして考えてみると、椎名氏はふたつの信用を失ってしまったように思います。  ひとつは、クリエイターとしての信用です。具体的なデザインはおろか、仕上がりのチェックもせずに“椎名林檎”の名前で通していたのだとすれば、彼女の才能を信じたファンをがっかりさせる行為に他ならないからです。  先述したように、本当に何も知らないところで全て決定していたのであれば自身の口から説明したほうがいい。それはアーティストとしての沽券にかかわる問題である以上に、自らの誠実さを証明するためにも必要なことなのだと思います。  たとえば、2014年に4人組ロックバンド「クリープハイプ」が、“レコード会社が一方的に決めた”としてベスト盤の発売に異議を唱えたケースがありました。意思に反した決定であれば、経緯を説明しても何ら不自然ではないのですね。  しかし、ヘルプマーク、赤十字問題について分かっているのは、彼女が関わっていないということだけです。社会問題化するほどのセンシティブな問題を預かり知らぬところで進められたことへの異議申し立てはありません。  となると、今後“椎名林檎”の名を冠した制作物に込められた意図や意志をどのように問い、評価したらいいのでしょうか? 彼女が関与していない可能性を常に考慮したうえで、加減して付き合わなければいけないということなのでしょうか?  UNIVERSAL MUSICの発表に従えば彼女に非はないことになります。けれども、これまで築いてきた“マルチクリエイター”としての評価がどう変わっていくかは別の話なのだと思います。

「本人からの説明がない」ことへの違和感

 もうひとつは、ひとりの成人としての信用です。問題となっている理由を理解し懸念していることぐらいは表明すべきでした。途中まででしたがオリパラに携わり積極的に発信してきた立場からも、ヘルプマークや赤十字への考えを明らかにする義務はあるように感じます。  そのうえで時代感覚とすり合わせて判断を誤った部分があるのなら、それを認めてデザインを変えるなりグッズを差し替えるなりすべきだった。  それでも差し替えられない、または差し替えたくない理由があったのだとしたら、モチーフとして利用した意図をていねいに説明すべきでした。仮にレコード会社が企画やデザインを請け負っていたのだとすれば、レコード会社に掛け合い、説明するよう促すこともできたかもしれません。  それはアーティストである以前に、一人の人間として自身と関わる人達への疑念を解いていくためにもしなければならないことでした。  そのような過程を経ていれば、デザイン変更という結論は同じだったとしても世間の印象は全く違ったはずです。
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アーティスト不在の「結論」
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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