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『ポケモン』最新作が大ヒット。初代『赤・緑』は「何が革新的だったのか」振り返る

初代『ポケットモンスター』の革命

『ポケットモンスター 赤・緑』のゲーム性を紹介する、(株)ポケモンの公式サイト

 では、なぜこれだけ『ポケットモンスター』がヒットしたかというと、それは従来のRPGの常識を超えるエンターテイメント体験をユーザーに与えたから。その3つのポイントを簡単に見ていきましょう。 (1)主人公が戦闘せず、モンスターが主役  モンスターを仲間にして戦うRPGは『ドラゴンクエストV』(1992年)を筆頭に『女神転生』『真・女神転生』シリーズなど、すでに存在していました。ただ、それらはメインで戦うのは主人公で、モンスターはお供。『ポケットモンスター』はモンスターがバトルの主役となっているのが新鮮でした。しかも、ゲームの大きな目的は150種類のポケモンを集め図鑑を完成させること。RPGの障害としての敵という概念を変えて、集めるものであり、仲間であるという発想の転換が行われていました。 (2)プレイヤー同士の通信交換  もともとゲームボーイはケーブルを介した通信機能を搭載していましたが、『テトリス』のような通信対戦が中心で、今ひとつ機能を活かしきれていない状況が続いていました。 『ポケットモンスター』の生みの親・田尻智さんは当初から通信ケーブルでのデータ交換に着目し、「交換して楽しむ」を軸に据えたコンセプトでゲームデザインを進めていました。プレイヤー同士の交換を促すために、2種のバージョン違いで出現するポケモンが一部異なるという仕掛けは最新作にも受け継がれています。 「ユンゲラー→フーディン」「ゴーリキー→カイリキー」など、交換することで進化するポケモンもいて、持ち寄って遊べるゲームボーイの携帯性をうまくゲーム内容に採り入れたタイトルが初代『ポケットモンスター』だったといえます。

本編とは別腹の通信対戦のお得感

(3)白熱する対人戦 『ポケットモンスター』の楽しみ方のひとつとして、育てたポケモンを繰り出して激突する対人戦を挙げる人も多いでしょう。初代から15種類のタイプ(現在は「あく」「はがね」「フェアリー」が増えて18種類)と、相性の概念がある複雑なバトルシステムが搭載され、ポケモンバトルは徐々に人気を博し、1997年には最初の公式大会「ニンテンドウカップ97」が開催されています。  実はこの通信対戦システムは、『ゲームフリーク 遊びの基準を塗り替えるクリエイティブ集団』(とみさわ昭仁・著)によると、ゲーム完成の締切2週間前に突如採用されたとか! 初代の対戦は荒削りな部分もありましたが、RPG本編とはまた違う、1本で2度美味しいお得感がありました。  RPGという枠ばかりか、ゲームという枠も軽やかに飛び越えて、世界でもっとも愛される幻獣神話のひとつとなった『ポケットモンスター』。初代発売からおよそ四半世紀、最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の挑戦が、また新たな未来を切り拓くのか? それでは冒険にいってまいります。 <文/卯月 鮎>
ゲーム雑誌・アニメ雑誌の編集を経て独立。ゲーム紹介やコラム、書評を中心にフリーで活動している。雑誌連載をまとめた著作『はじめてのファミコン~なつかしゲーム子ども実験室~』(マイクロマガジン社)はゲーム実況の先駆けという声も
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