更新日:2022年12月07日 20:18
スポーツ

ベスト16で散った日本代表。クロアチア戦で露呈した「疑問に感じる采配」

日本の縦パスを奪いボールを支配

前田 日本代表

大会を通じて初の先制ゴールを決めた前田

 だが、クロアチアは違う。「4-3-3」の布陣は攻撃時も「4-3-3」で、サイドバックが高い位置を取るとはいえ基本はMFが形成するラインに並ぶ程度の位置取りとなっている。また、相手の最終ラインと並ぶのは前線の3人のみというがほとんどのシチュエーションだった。  相手3人の前線に対して最終ライン5人で対峙し、相手のインサイドハーフであるルカ・モドリッチとマテオ・コバチッチにはそれぞれボランチの遠藤航と守田英正が対応した。クロアチアはボールを回しながら、相手陣内への進入を試みるビルドアップ時には、最終ライン4人と中盤の底を務めるマルセロ・ブロゾビッチで組み立てていたのだが、その5人に対しては前田大然、鎌田大地、堂安律の3人で対応した。  また、クロアチアは後方にその5人が残っているため、日本が素早い攻撃を仕掛けるスペースを埋めていた。サイドバックが上がった際もブロゾビッチを中心にその後方スペースをうまくケアしていた。さらに、出しどころが少ない日本の縦パスを奪いボールを支配していった。  そういった状況でも鎌田はうまく縦パスを引き出して、相手陣内へ押し込むきっかけをつくっていた。それでも鎌田から縦へ展開できるコースは浅野か堂安という2つしか選択肢がなかったため、相手にとっては想定内の攻撃しか仕掛けられず対応されてしまった。  そもそも前線3人に対して最終ラインに5人を並べる必要はあったのだろうか。相手をリスペクトしすぎた故の戦術なのか、グループステージでの成功体験に固執したからなのかはわからないが、クロアチア戦においては愚策となった。  それは失点シーンにも現れている。右サイドのアンドレイ・クラマリッチが中央へ切り込んだことで、右サイドバックのヨシプ・ユラノビッチが最終ラインに並ぶくらい高い位置を取る。そこからセンターバックのデヤン・ロブレンにパスが送られ、そこからゴールにつながるクロスが供給された。

ミスマッチをついてきたクロアチア

 クロスの供給源となったロブレンには鎌田がプレッシャーに向かっていたが、遅れておりほとんど意味をなさなかった。遅れた理由として、鎌田はブロゾビッチ、ユラノビッチへの対応が主としたタスクで、そもそも担当外である。さらに、ユラノビッチが高い位置を取り長友佑都とマークの受け渡しを行ったため、中央に寄せられていた。とはいえ、相手の後方5人に対して前線3人で対応するという決め事だったため、ロブレンがフリーでボールを受けることは想定済みで、最終的にゴール前を固めていれば大丈夫といった心理だったことだろう。  実際に、このとき日本は長友が外に引っ張り出されていたとはいえ、相手2人に対してゴール前の最終ラインは4人で対応していた。守るには十分なシチュエーションだった。しかし、ボールはファーサイドへ送られて、うまくミスマッチをつかれる形になった。ゴールを決めたユラノビッチとマークについていた伊東の身長差は10センチほどあり、空中戦においてはミスマッチとなる。しかも、そもそも伊東はディフェンスの選手ではなく、放り込まれたボールを競り合って対応することなどこれまでのキャリアの中でもほとんど経験したことがなかったことだろう。対応しろというのは酷である。あの位置から強烈なヘディングシュートができるのは、そもそもスーパーなゴールなのだが、それ以前の段階でミスマッチをついたのはクロアチアの狙いどおりだろう。  その後は冨安がうまくカバーして事なきを得たが、あの場面を切り出して主張すれば最終ラインは4人で十分だった。同じ先発メンバーで冨安を右サイドバックに置き伊東をひとつ前のポジションに置くと、失点シーンでは日本の数的優位性は保ったままでミスマッチも生じさせないという状況を生み出せた。最終ライン4人の「4-2-3-1」という布陣であれば、相手サイドバック、センターバック、中盤の底への対応という役割をはっきりとさせられており、クロスさえ入れさせなかったのではないかと考えている。  しかも、「4-2-3-1」であれば縦パス後のパスコースも増え、もっと攻撃機会をつくれていたことだろう。さらにはボール支配率も上がり、もっと楽に戦えていたはずだ。しかも、ビルドアップ時におけるクロアチアのプレッシャーはドイツやスペインに比べると厳しいものではなく、現在の日本代表選手らであれば十分に回避できるレベルだったように感じる。  その後、選手交代で三笘を左サイドに酒井を右サイドに据えたが、そもそも攻撃に参加するスタート位置が低いうえに、前線で時間をつくれないため高い位置取りすらも難しい状況だった。しかも、高い位置で受けたときには、必ず相手は複数人で対応してきた。それではストロングを生かせない。三笘投入と同時にシステム変更がなされなかったことについて疑問に感じる采配となった。
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トレーニング不足を感じたPK
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スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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