2023年冬ドラマ「今からでも観たくなる傑作6作品」を独自採点してみた
民放の冬ドラマが折り返し地点に差し掛かった。プライムタイム(午後7~同11時)の中間採点を独自にしてみた。上位6作品を並べた。
タイムリープものは主人公が壮大な目的を持っている作品が多い。たとえば主人公が第3次世界大戦を防ごうとした米映画『TENET(テネット)』(2020年)である。せっかくタイムリープするのだから、スケールが大きくなりがち。
このドラマは違う。安藤サクラ(36)が演じる主人公・近藤麻美は、死んだ自分が来世でも人間に生まれ変わるため、徳を積むことになった。情けないほどスケールが小さい。
それが良かった。どこにでもいそうな女性がタイムリープするから、あり得ない話が身近に感じられ、同時に愉快な物語になった。
麻美による徳の積み方も卑近。同級生・森山玲奈(黒木華)の不倫を阻止したり、中学で社会科を教わった教師・三田哲夫(鈴木浩介)が痴漢の冤罪で捕まるのを防いだり。世間を震撼させた大事故・大事故の記憶もあるはずで、それを食い止めたら大量の徳を積めるはずだが、やらない。それもいい。麻美がそんな立派なことをしたら、よくあるSFで終わってしまった。
麻美の元同級生の親友に夏帆(31)、木南晴夏(31)という実力派を配したことも成功の理由にほかならない。3人とも20歳の成人式から33歳までを演じるが、まったく不自然さを感じさせない。ここで「おい、おい」と違和感をおぼえさせてしまうと、観る側は現実に戻ってしまう。
3人の交わす会話の大半は意味が1ミクロンもない。これもリアリティを生んでいる。現実の人間が友人と交わす会話もほとんど意味がない。友人との雑談で哲学を語る人なんて、まずいない。愛だって語らないだろう。
タイムリープという大ウソに説得力を持たせるため、それ以外にはリアリティを満載した。うまい。
井上真央(36)が演じる主人公は相馬悠依。その恋人で佐藤健(33)が演じる鳥野直木(佐藤健)は殺された。直木の幽霊は現世に残っており、松山ケンイチ(37)が演じる刑事・魚住譲だけがその存在を認識できる。
タイムリープと同じく、幽霊ものも過去にあったが、ミステリーとサスペンス、ユーモアを交えた脚本が絶妙で、出演者もうまい人ばかりだから、引きこまれる。
悠依と直木は中学時代、同じ里親に預けられ、知り合った。そこには直木殺害のキーパーソンと思われる尾崎莉桜(香里奈)もいた。直木は殺される前、里親の広田勝(春風亭昇太)から「莉桜ちゃんに返して欲しい」と、500万円を託されていた。
どうやら少女買春絡みのカネらしい。また直木が殺害される前、莉桜の旧友で買い物依存症の高原涼香(近藤千尋)も殺された。なぜなのか。
これらの事件や謎の真相解明が作品の今後の見どころだが、隠しテーマも徐々に見えてきた。「子供たちの幸せ」を観る側に問い始めている。
作品側は連ドラに登場するのは珍しい里親制度をポイントとして出してきたうえ、直木がシェフを務めるレストランではオーナー・池澤英介(荒川良々)が子供食堂を運営していた。
不遇な子供たちを随所で描いている。そもそも直木も両親の愛に恵まれなかった。少子化が喫緊の課題なのにドラマでは子供が描かれない中、この作品は最終的に何を訴えようとしているのか?
脚本を書いているのは日本を代表する作家の1人である安達奈緒子氏で、プロデューサーは数々の名作を手掛けてきた磯山晶氏。単に事件と謎の種明かしでは終わらないはずだ。
『ブラッシュアップライフ』(日曜午後10時30分 日本テレビ系) 90点
「100万回言えば良かった」(金曜午後10時 TBS系)85点
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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