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名作RPGが新作歌舞伎に!連続テレビ小説も手掛けた脚本家の“引き算の美学”とは

分かりやすさを捨てて歌舞伎脚本の新境地へ

新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ

【脚本家・八津弘幸】
’71年、栃木県生まれ。’99年に脚本家デビュー。これまで、連続テレビ小説『おちょやん』、『家政夫のミタゾノ』など、数多くのヒット作の脚本を手掛けるヒットメーカー

本人もオファーそのものは素直に喜べず、むしろ戸惑ったという。 「歌舞伎向けの脚本は書いたことがなかったし、何よりゲームと歌舞伎の融合そのものが世界初の試み。僕が伝統芸能に泥を塗ってしまうのではという重圧が強かった。でも実際にFFⅩをプレイすると、シンに戦いを挑む姿や未来社会への希望、そしてキャラクターがお互いを思いやる愛しさなど、過酷な現実に晒される今の私たちがどう生きるのかを考える一石となる作品だと……。僕も触発され、新しい試みに挑むことにしました」 また八津が「歌舞伎、ゲーム、ドラマでは、物語の構成も視点も随分違った」と語るように、シナリオ制作は葛藤の連続だった。 「FFⅩはプレイヤー目線で作り込まれた物語。かたや歌舞伎は観客が第三者として楽しむので、見方そのものが違う。例えば敵を倒すなど、ゲームだからこそ得られるプレイヤーのカタルシスを説明しすぎると、ドラマ寄りの脚本になってしまい、歌舞伎ならではの良さを奪いかねなかった。ゲームを知らない人にも物語が分かるように構成をしましたが、今回は脚本家としてのこだわりやわがままを捨て、あえて余白を作り、毛振りなど、歌舞伎が持つ歴史と世界観に委ねた部分も多かったです。この“引き算の美学”がどう化学反応を起こすのか。僕も観るのが待ち遠しい」 不朽の名作・FFXによって歌舞伎の扉が新たに開かれる。その瞬間はもう目の前だ。 取材・文/谷口伸仁 撮影/清水将之
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