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東日本大震災の爪痕が残る気仙沼に“奇跡の女将”。喪失を乗り越えて笑う

気仙沼市の民宿「つなかん」女将を追ったドキュメンタリー

ただいま、つなかん

©2023 bunkakobo ©加藤拓馬

宮城県最北端に位置する気仙沼市。リアス式海岸を有する唐桑半島に民宿「つなかん」はある。映画『ただいま、つなかん』は、東日本大震災があった翌年’12年から10余年、民宿を営む女将・菅野一代を追ったドキュメンタリーだ。 監督の風間研一が初めて一代のもとを訪れたのは’12年2月。当時ディレクターを務めていた報道番組の震災企画特集での取材だった。 「行く前は、震災から約1年がたつとはいえ、被災者とどう接するべきか迷いがあった。でも出迎えてくれた一代さんは明るく元気で、こんな人もいるんだと驚きました」
ただいま、つなかん

©2023 bunkakobo ©加藤拓馬

一代は震災ボランティアの学生たちに自宅を開放し、さらには「みんながいつか戻ってこられる場所に」と民宿に改装した。風間監督は取材後も「つなかんには“何か”がある」と足繁く通い続けた。 「’15年に取材で訪れたとき、かつての学生ボランティアたちが次々と移住してきていることを見聞きしました。つなかんを中心に不思議なことが起きている。この現象をもっと知りたいと思ったんです」

’17年に起こった悲劇

しかし’17年、悲劇が起こる。唐桑半島沖で一隻の漁船が転覆。船に乗っていた一代の夫、長女、三女の夫が帰らぬ人となった。 「一代さんは家に閉じこもり塞ぎ込んでいる。つなかんの料理長の話しぶりから取材を続ける状況にないと判断しました。だから映画に事故直後のシーンはありません」
ただいま、つなかん

監督の風間研一氏

それは取材者としての苦渋の決断であり最大の配慮だった。と同時に、一代とつなかんを「記録に残そうと強く意識した」瞬間でもあった。事故から3か月後、SNSでつなかんが営業を再開すると知った風間監督は一代に手紙を送ったのち再びカメラを握った――。
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「決して何事も無駄ではなかった」
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