更新日:2023年06月09日 15:48
デジタル

Apple新製品「Vision Pro」の奇怪な姿に世界騒然。Appleが人類の顔を変える日

Mac Proの性能を“持て余す”不自然さ

WWDC23

Mac Proのグラフィック性能の高さを見せつけるには、生成AIの利用が一番手っ取り早いはず。物足りないプレゼン映像となった

 したがってMac Proのプレゼンに関しては、「不自然なほどに短い」というのが率直な感想だ。生成AIの扱いを巡っては各界で賛否両論の状態が続いており、特にアメリカでは、映画・テレビ関係者の労組が生成AIの無軌道な利用に反対し、先月よりストライキを継続している。今回Mac Proでの生成AIの実演を避けたのは、Appleからエンターテインメント業界への配慮と考えるのが妥当だろう。  いっぽうコンピュータ・マニアの間では、Stable Diffusionを実行するためにゲーミングPCを新調する動きがあり、彼らはMacを選ばない傾向にある。新しいMac ProやMac Studioは本来、この層にアプローチしたかったはずだ。筆者としても、やはりMac Pro上で生成AIが動作する様子は見てみたい気持ちが強く、もったいない感じがした。

映像に垣間見るクックの“AI観”

 とはいえ、Apple製品が高度なAIを利用していることにはかわりない。たとえばiOSの新機能の紹介では、書きかけの文章の続きを提案する様子を紹介しているが、これも生成AIの一種と考えることができる。  また、後述する「Vision Pro」でのビデオチャット時にも、AIにより補完された自画像が利用される。このように、映像業界や音楽業界との摩擦のない部分においては、積極的にAIを活用していく姿勢のようだ。  そういったAI観は、妥当であると同時に、極めて保守的とも感じる。もうすぐ就任から12年を迎えるティム・クックCEOが、アメリカを代表する良識的な企業家であることは万人の認めるところだ。しかし今は亡きスティーブ・ジョブズだったら、この状況にどう対応するだろうか。
WWDC23

生成AIに関しては慎重派とも目されているティム・クックCEO。生成AIに仕事を奪われかねないクリエイターを慮ってのことだろうか

 ジョブズ時代のAppleのKeynote講演といえば、「負けず嫌いの自慢大会」という趣きがあった。彼ならば、Macと生成AIの相性が悪いと思われることは許せなかったはずだ。もしかしたら、最新のAI技術で自分の分身を作り出し、今回のプレゼンテーションを任せていたかもしれない。  AIにより新しい局面を迎えるテック業界において、Macがどのような立ち位置を得ることになるのか、引き続き注目していきたい。
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夢のデバイス「Vision Pro」がベールを脱ぐ
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「平成時代の子ども文化」全般を愛するフリーライター。単著に『多摩あるある』と『オタサーの姫 〜オタク過密時代の植生学〜』(ともにTOブックス)ほか雑誌・MOOKなどに執筆
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