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「母の名前を見るだけで吐いてしまう」20代女性を追い込んだ母親の“陰湿な対抗心”

彼氏に対しても嫌味を言うように

 大学生になって彼氏ができたことを知ると、母親の干渉はヒートアップした。 「私の彼氏について根掘り葉掘り聞いたあと、『親の金で勉強させてもろてる身分で、ええなぁ。そんなうつつ抜かしてる余裕なんて私のころはなかったわ。相手の子の親御さんも、お金かけて息子が恋愛に一生懸命で、ほんまご愁傷様やわ』と早口でまくし立てていました。  母親にとっては、公務員である父親と結婚できたことが最大の成功ですから、『高卒でもな、花嫁修業をちゃんとしたら、きちんとした人と結婚できんねん』と当てつけのようによく言っていましたね。  このくらいの時期から、『確かにちゃんとした教育を受けさせてもらったけど、なんでここまで言われないといけないんだろう』と思いました。母親は親としてやるべきことを全うしてくれる反面、必ずチクリと嫌味を言わないといられないんです。握手しながら刺してくるようなところがある。苦手ですね」

母の名前を見るだけで吐いてしまう

 母親への思いを具体的に意識したのは、糸井さんが入院したときだ。 「子宮の病気にかかってしまい、入院することになりました。結構危ない状態だったらしく、家族が呼ばれたんです。母親はかいがいしく私の世話をしてくれました。本人は嬉々としていましたよ、なんといっても私の大ピンチに、自分が施してあげる側になれたのです。事実、はたから見れば愛情に満ちたお母さんだったでしょう。こちらが弱っているとき限定で、優しい言葉がけもあります。でもそれは、奈落にいる私を憐れんで、手を差し伸べてあげる自分に酔っているだけなんですけど」  退院しても、「心配している」という大義名分を得た母親は、ほぼ毎日電話をしてきた。病気は快方に向かったが、糸井氏は、次第に精神が落ち込むようになった。 「そのうち、着信履歴に書かれた母の名前を見るだけで吐くようになってしまいました。このままでは本当におかしくなってしまうと思い、母親の名前が出ないように、番号を電話帳登録するのをやめました」  糸井氏は、大学にも休学届を出し、誰にも言わず転居し、人と関わらない日々を過ごしている。母親の番号と思われる着信が時折あるが、そのときはスマホを裏返しにして布団の中にそっといれるのだと語った。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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