「入れ墨で肌をもっと可愛くしたい」“高校を特待生で卒業した女性”が20歳で入れ墨を彫るまで――仰天ニュース傑作選
2024年の大反響だった記事をピックアップ! すご過ぎて順位はつけられない「すごい人生」部門はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年7月1日 記事は取材時の状況)
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待ち合わせ場所に現れた女性は、小柄で華奢な体躯を折りたたむように頭を下げた。全身をカラフルに染め上げた入れ墨がどうしても目立つ。氷華さん、現在は都内SM店で女王様をしている。「女王様」「入れ墨」の持つインパクトと裏腹に、丁寧で腰の低い女性だ。
よく見ると、全身に描かれた絵のタッチは微妙に異なっている。
「尊敬する彫師さんに描いてもらっているんです。これまでで4人、彫ってもらったかな」
そう言ってシースルーの長袖をまくると、これまでよりくっきりと描線が姿を現した。
「えっ」
取材が始まってすぐ、思わず頓狂な声を上げてしまった。氷華さんが申し訳なさそうに、こんなことを言ったからだ。
「実は、入れ墨を彫った深い理由はないんです。きっと多くの場合、身体に彫るまでにさまざまな人生の物語があると思うんですが、私はそれが全然ないんですよ。だから、期待はずれなのではないかと思うといたたまれなくて……」
入れ墨は苦痛を伴う。誰でも気軽に彫れるものではないからこそ、そこに覚悟や誓いという色が滲むことは多い。入れ墨を愛好する人のなかには、人生の辛酸を舐めてきた人も多いだろう。だが目の前にいる氷華さんは、それらとほど遠い人生を歩んできたのだという。それではなおさら、彼女を入れ墨に駆り立て、ここまで魅了したものとは何か――。
氷華さんは大阪府に生まれ育った。兄ひとり、姉ひとりの三人きょうだい。全員年齢が近いこともあって仲が良く、現在も交流が盛んなのだという。
「きょうだい全員、入れ墨がたくさん彫られていますが、不良ではありません。家族全員から存在を恐れられているのは、ひとつも入れ墨など入っていない母ですね(笑)。うちの母は昔から、怒ると必ず木製のハンガーで殴ってくるんです(笑)。
思い出深いのは、私が20歳を過ぎた頃のこと。帰宅すると、母から『全員、玄関に正座しぃや』と言われました。当時はきょうだい全員、入れ墨がどんどん増えていった時期で、母の我慢も限界に達していたのでしょうね。そのことはすぐにピンと来ました。
私たちは全員全裸で玄関前に正座させられました(笑)。母のお説教を聴きながら、木製ハンガーでガツンと数発。当たり前ですが、かなり痛かったです。成人を過ぎたきょうだいが揃って玄関先で全裸で正座している図は、なかなかシュールですよね。
きっと母には『こんなに入れ墨ばかり彫って、将来をどう考えているのだろう』という怒りと焦りがあったんだと思います。母は愛情深い人で、たまに予想もつかない行動をする女性です。私たちはそんな母が好きで、母の日などのイベントは必ずお祝いしています」
入れ墨を彫った深い理由はない
“全員入れ墨”の三人きょうだいが全裸で…
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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