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走る哲学者・為末大が考える“子どもに伝わることば”とは?学習には身体感覚が必要

リーダーシップのことばと学びに大切なこと

――今のお話に関連して、言語能力とリーダーシップには関係があると思いますか? 為末:このテーマには以前から非常に興味があります。トランプ氏があれほど支持を集めたのは、多くの人が理解しやすい単語を厳選していたからではないでしょうか。それがよいリーダーシップかという問題はありますが、どのことばを使うかによって、どの程度の範囲の人にまで届くかが変わってきます。 今井:それともう一つ、相手の心を先読みして、こう言ったらこう反応するだろうと直感的にわかる能力もリーダーシップには重要ではないでしょうか。  実は「人の心を読む」というのは非常に難しく、特に小さい子どもは、自分が見えているものは相手も見えているという想定で行動しがちです。これを「心の理論」と言います。  大人でも自分がわかっていることは、相手もわかって当然と考える傾向がありますが、そのことを念頭に置き、ことばを使うという能力がリーダーシップには必要だと思います。

大事なことは「問い」を持つこと

為末:リーダーシップとは少し異なるのですが、教育の場合はどうでしょうか。僕は、教育で本質的に大事なことは、本人をやる気にさせることではないかと考えています。  僕の母親は一言で言うと「感心する人」でした。僕が何を言って感心してくれて、それがモチベーションにつながっていたように思います。でも今、同じことを自分の子どもにやろうとしたら非常に難しい。感心するふりはできるのですが、本気で感心するというのはなかなかできません。  先生の研究領域ではいかがですか? 今井:認知科学では、やはり学び方を学ぶということになると思います。世界の知識は膨大で、すべてを教えることはできません。結局、個人が関心のあることを自ら選び、自分で学ぶしかありません。それを自立して行えるようにすることが重要だと考えています。  でも、これはスキルをマニュアル的に学ぶということでは決してありません。近年、リスキリングということが言われていますが、スキルにばかり注目しているようで、あまりよいイメージがありません。  スキルというのは時代が変わると置き換わります。かつて慶應義塾大学の塾長(総長)を務めた小泉信三氏の名著『読書論』に、「今すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる」ということが書かれていました。  一番、大事なことは「問い」を持つことではないでしょうか。問いがあれば、そこにいたるまでの方法は人に教えてもらったり、自分で調べたり、いろいろあります。でも、「問い」は教わることはできません。 為末:今井先生はどのように問いを持ちますか? 今井:私の場合、身近な小さな問いから始めると、多くの研究者が関心を持って取り組んでいる最先端の問いに無理なくたどりつけることが多いです。逆に、日常の体験的な問いでないものは、ピンときません。 為末:日常的に自分の感覚でわかる、記号接地的な問いから始めるということですね。 今井:それが大事かなと思います。 <取材・文/日刊SPA!取材班> ※本記事は、9月12日に開催した書籍刊行記念のトークイベントをまとめたものです。
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