更新日:2023年10月31日 16:52
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2023年秋ドラマ「コア視聴率」BEST10。民放各局が“最も重視する数字”で好スタートを切ったのは

コア視聴率が売上の差を決定づける理由

リビングでテレビを見る女性

写真はイメージです

 テレビ界は視聴率を中心に動く。それは昔も今も全く変わらない。テレビ、広告代理店で働く人間なら、例外なくそう言う。  番組の提供スポンサーは一定以上の視聴率を期待できると思うから制作費を提供するのであり、視聴率が見込み違いだったら撤退する。番組の合間などに流れるスポットCMも視聴率に応じて値段が決まる。民放ビジネスは視聴率と切り離せないのだ。  民放で昨年度の個人全体視聴率の全日帯(午前6時~深夜0時)の平均値がトップだったのは日本テレビ。3・6%だった。CM売上高も順当にトップで約2369億800万円を記録した。テレビ朝日も個人全体視聴率の全日帯平均値は同率トップなのだが、CM売上高は2位で約1791億4100万円だった。  なぜ、差が付いたのか? 同じ全日帯のコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)の平均値が、日テレは2・9%だったのに対し、テレ朝は1・4%に留まったからだ。コア視聴率はスポンサーが歓迎し、CM売上高の増減に直結する。だから各局はコア視聴率を狙う。この点は3年半前に個人視聴率が導入される前とは変化した。  民放のコア視聴率狙いは進む一方で、元に戻る気配すらない。理由は明快である。民放のスポットCMを買う業種の上位には携帯電話などの通信事業、ゲーム事業、テーマパークなどのレジャー事業が並ぶからだ。いずれも若者からミドル層をターゲットにしている。CMを大量に流すスポンサーはコア層の視聴者を強く望んでいるのである。  一方、TVerなど無料動画の再生数が伸びているものの、その各局の売上高はCM売上高の30~50分の1程度に過ぎない。日テレの場合、昨年度のCM売上高は前述の通り約2369億800万円だが、TVerなどの無料動画の広告売上高は同51億4600万円に留まっている。  誤解している向きもあるようだが、番組は提供スポンサーが負担する制作費によってつくられる。TVerの広告収入を制作費に充てることは出来ない。会計が別なのだ。番組の視聴率が落ち、提供スポンサーが次々と離れたら、その番組は終わる。いくらTVerで観られていようが関係ない。

世帯視聴率はいずれ消えゆく運命

 NHKも近年は若い視聴者の獲得に躍起になっている。こちらは民放とは事情が違い、組織存続のためには次代の視聴者を獲得しなければならないと考えているからだ。紅白歌合戦の出演陣から演歌勢や歌謡曲勢が減ったり、昨年度から平日午後10時45分~同11時半を若年層ターゲットゾーンと位置付けるようになったりしたのはその表れである。  3年半前の個人視聴率の導入からテレビ業界は世帯視聴率を使わなくなったが、大きな理由は視聴実態が分からないため。個人全体視聴率の場合、関東地区の視聴者総数は約4300万人なので、1%は約43万人とはっきりしている。視聴者の性別、年齢なども分かる。   一方、1つの家は1人のことも5人以上のこともあるから、世帯視聴率の1%は何人観ていたかも分からない。掴めるのは観ていた家の数のみ。これでは番組づくりの参考になりにくいし、スポンサーも逃げる。  そのうえ世帯視聴率は一家の1人でも観ていたらカウントされるため、どうしても高齢者好みの番組のほうが数値は高くなってしまう。少子高齢化で高齢者は人数が多く、しかもテレビをよく観るからだ。20代が平日1日にテレビを観る時間は約1時間29分なのに対し、70代は約5時間半も観ている(2022年、総務省調べ)。  高齢者向けの番組もあるべきだが、もし物差しを世帯視聴率にしたままだったら、かなり偏る。家を数える世帯視聴率を、個人ごとに調べる個人視聴率より優先する道理はない。ちなみに米国は1990年代から個人視聴率である。  放送記者クラブに加盟する新聞各社の場合、現在は個人全体視聴率と世帯視聴率を併記しているが、それは移行期間と考えているから。いずれは個人全体視聴率に統一する流れ。メートル法が導入されたら、尺貫法が消えていくのと同じことである。
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秋ドラマのコア視聴率BEST10
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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